シャープレシオ最大化戦略の特徴とパフォーマンス【スマートベータ】

シャープレシオスマートベータ、あるいはファクター投資の1つにシャープレシオ最大化戦略というものがあります。

この戦略はその名の通り、事前ベースでのシャープレシオを最大化するものです。

過去のリターンは将来を予測しないという前提に立つと、このシャープレシオ最大化戦略は直感的にはワークしにくいように思われます。

しかしながら、実際には割とパフォーマンスは良好で、それほど悪くない戦略です。

ここではこのシャープレシオ最大化戦略をご紹介します。

シャープレシオ最大化戦略とは

シャープレシオ最大化戦略は、事前ベースでポートフォリオのシャープレシオを最大化する戦略です。

もちろん事後的なシャープレシオを最大化できればよいのですが、そんな将来を見通す魔法のような方法はないため、あくまでも事前ベース(ポートフォリオ構築時における)で最大化を行います。

事前にシャープレシオが最大のポートフォリオが事後的にも最大になるわけではないのですが、実際には事後的に見てもそれほど悪くないパフォーマンスを提供してくれる戦略です。

シャープレシオ最大化戦略ポートフォリオの作り方

既に述べたように、シャープレシオ最大化戦略は事前ベースでのシャープレシオの最大化を行います。

そしてポートフォリオのシャープレシオを求めるためには、各銘柄のリスク、リターン、相関係数が必要になります。

要は個別銘柄を用いた有効フロンティアを求め、その中でシャープレシオが最大となる点を使うというイメージになります。

ここでの問題は、リスク、リターン、相関係数をどう設定するかということです。

リスクの推定

リスクの推定には様々な方法がありますが、よく使われるのはヒストリカルボラティリティを使う方法です。

リスクに関してはリターンとは異なり時系列で比較的安定しているため、ヒストリカルボラティリティで十分な場合が多いです。

もちろんインプライドボラティリティや、ARCHやGARCHといった手法を使って求めることもできますが、経験上このような手段をとってもそれほど推定精度は向上しません

シンプルなヒストリカルボラティリティで十分というのが個人的な感触です。

どのくらいの期間のデータを使うか

ヒストリカルボラティリティを使う時には、どのくらいの期間のデータを使うのがよいかという問題が発生します。

正直ここには答えはありませんが、個人的には過去5年くらいを推奨します。

5年という期間をとると、概ね経済環境がよかった時、悪かった時が含まれるため、これらの期間を含んだ推定値を算出することができます。

より直近の情報を重視したいのであれば1年や2年といった期間でもよいかと思いますが、期間が短くなるほど推計値が不安定になりますので、こことの兼ね合いも考慮する必要があります。

リターンの推定

リスクに比べるとリターンの推定は難しいです。

リターンはリスクほど時系列で安定性がないためです。

一番シンプルなのはヒストリカルリターン(過去のリターン)を使うことですが、これには問題があります。

一般的にリターンには平均回帰する性質があるため、過去の高いリターンを鵜呑みにしてポートフォリオを作ると、その銘柄を過度に重視してしまうことになります

よく使われるのは、各銘柄でリスクとリターンのバランスが一定であるという仮定のもと、リターンを推計する方法です。

つまり、リスクが高い銘柄ほどリターンも高く設定し、リスクが低い銘柄ほどリターンも低く設定するわけです。

発想としてはCAPM的なものですね。

仮定としてはシンプルすぎる気もしますが、一応筋は通っており、理論上もそれほど違和感のない仮定の置き方ではないでしょうか。

相関係数の推定

相関係数もリスクと同様、過去のデータを使って推定することが一般的です。

期間はリスクと同様に5年くらいにすることが比較的多いです。

直近の相関を重視するのであればより短い期間にしたり、直近のデータに重みをつけたりといった方法もありますが、この辺りは好みと哲学の問題ですね。

ポートフォリオの構築

入力値としてのリスクとリターン、相関係数が求まれば、後は最適化でポートフォリオが求まります。

もちろん目的関数はシャープレシオの最大化です。

これで素直にポートフォリオが構築できればよいのですが、現実には様々な問題に直面します。

最適化というのは、まったく空気を読まずに目的関数を最大化するように動作するため出来上がりのポートフォリオに違和感があることが多々あります。

よくある例としては、

  • セクターが偏りすぎている
  • 特定の銘柄のウェイトが高すぎる
  • 特定のファクターのリスクを取りすぎている

といったことです。

これらを解決するためには、最適化の際に制約条件を加える必要があります。

セクターの偏りを修正したいのであれば、セクターの上限に制約を加えたり、個別銘柄のウェイトをコントロールしたいのであれば、そこにも上限を加えたりします。

このように適切と思われる制約を加えていくことにより、ポートフォリオの出来上がりは次第に違和感の少ないものとなってきます。

ただし、制約を加えるということはインプットの情報を削っていくことに等しいため、理論上は最適化の精度が落ちていくことになります。

出来上がりのポートフォリオに対する違和感と、加える制約条件のバランスをうまくとっていくことが求められます

ここはある意味職人芸ともいえる領域です。

シャープレシオ最大化戦略のパフォーマンス

シャープレシオ最大化戦略のパフォーマンスは比較的良好です。

少なくともヒストリカルリターンを用いた平均・分散最適化よりは優れており、リスクパリティや最小分散に比べると、同程度かやや劣るといった感じです。

この辺りはポートフォリオ構築時の制約条件などによっても変わってくるので一概には言いにくいところですが、シャープレシオで測ったパフォーマンスとしては大体上記のような序列になります。

シャープレシオ最大化戦略のパフォーマンスが比較的良好なのは以下のような理由になります。

  • リターンの推定が比較的妥当
  • リスクと相関係数も推定も無難

リターンの推定が比較的妥当

ここで紹介しているシャープレシオ最大化戦略では、リターンの推計の際にはその銘柄のリスクを基準としました。

つまり、ハイリスクハイリターンを仮定しています。

この仮定は現実のマーケットでもそれなりに当てはまるもので、当たらずとも遠からずといった推計値になります。

正確ではないけどそこまで悪くはない、といったところです。

ヒストリカルリターン(過去のリターンの平均値)を用いるとリバーサル効果でパフォーマンスはめちゃくちゃになる傾向があります。

一方で、このリスク対比のリターンが等しいという仮定はまずまず無難な推計値であり、これが比較的良好なパフォーマンスに繋がっていると考えられます。

リスクと相関係数の推定も無難

既に述べましたが、リスクと相関係数についても実に様々な推計値があります。

単純に過去のデータを使った推計は非常にシンプルですが、じつはそれなりに無難な方法でもあります。

GARCHやARCH、VARなどを使ってリスクや相関を推計すると、なんだかプロっぽくて洗練されている感じがしますが、実際にシンプルなヒストリカルデータを使った場合に比べ、それほど優位性があるわけではありません。

この辺りはインデックスファンドとアクティブファンドの比較に通じるものがあります。

つまり洗練された方法が必ずしも優れているわけではないのです。

ヒストリカルボラティリティやヒストリカル相関係数は最適な推計値ではないかもしれませんが、そんなに悪いものでもなくまずまず無難な推計値と言えます。

この無難な推計値を使っているからこそ、出来上がりのパフォーマンスもまずまずのものとなるといえます。

シャープレシオ最大化戦略のまとめ

シャープレシオ最大化戦略をまとめます。

まず、シャープレシオ最大化戦略は事前ベースでシャープレシオを最大にするポートフォリオです。

そしてこのポートフォリオを構築するにあたり重要なのは、リスク、リターン、相関係数の推定です。

それぞれの要素について様々な推定方法がありますが、必ずしも複雑な方法がよいわけではなく、単純に過去データを使うようなシンプルな方法でも割とうまくいきます。

ただし、リターンに関しては過去データの信頼性が低いため、リスクを基準にリターンを推定します。

これらのインプットを用いて、シャープレシオが最大になるように構築されたポートフォリオのパフォーマンスは比較的良好です。

リスクパリティや最小分散にはやや劣りますが、ヒストリカルリターンを用いた平均・分散最適化よりは良好といったイメージです。

シャープレシオ最大化戦略は一般的にはあまり知られておらず、アカデミックな論文でたまに見かける程度ですが、マイナーな割にはそこそこ有効な戦略ではないかと思います。

関連記事:リスクパリティ戦略の特徴と問題点

関連記事:最小分散ポートフォリオの特徴とメリットデメリット

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