アクルーアル(会計発生高)アノマリーの発生原因とパフォーマンスとの関係

アノマリー株式マーケットで知られているアノマリーの1つにアクルーアルあります。

アクルーアルというのは、会計発生高と訳されることが多いですが、ざっくりいってしまうと企業の会計上の利益と実際に発生したキャッシュフローとの差です。

アクルーアルアノマリーとは、このアクルーアルと将来のパフォーマンスに負の関係があるというものです。

つまり、アクルーアルが大きいほど将来のパフォーマンスが悪くなるのです

このアクルーアルアノマリーは長年の間謎とされてきました。

効率的市場仮説の反証として挙げられることもありました。

1996年にスローン(Richard Sloan)が論文に発表してから一躍有名になった現象ですが、なぜアクルーアルアノマリーが発生するのかについては現在でも様々な議論があります。

ここではアクルーアルとは何か、アクルーアルアノマリーが発生する原因は何か、そしてアクルーアルを使った投資戦略のパフォーマンスについてご紹介します。

アクルーアルの定義

アクルーアルは以下のように定義されます。

アクルーアル=利益―キャッシュフロー

要するに、会計上の利益と実際に発生したキャッシュフローとの差です。

アクルーアルは他にもバランスシートから算出することもできますが、計算が複雑になるため、一般的には上記の定義がよく使われます。

実務的には、会社の規模を調整するため、総資産で割ったアクルーアルを使用します。

調整アクルーアル=(利益―キャッシュフロー)/総資産

なお、アクルーアルの詳細については以下の記事をご参照ください。

関連記事:アクルーアルで危ない企業を見破る方法

アクルーアルとパフォーマンスの関係

1996年のRichard Sloanの論文により、アクルーアルと将来のパフォーマンスとの関係性が示されました。

簡単に言うと、アクルーアルと将来のパフォーマンスには負の関係があります。

つまり、アクルーアルが大きい程、将来のパフォーマンスが悪くなるという傾向があるのです。

当時の検証では、アクルーアルが大きい企業と小さい企業のパフォーマンス格差は、年率10%にも及びました。

このアクルーアルアノマリーは、効率的市場仮説の反証にもなると言われ、その後様々な研究がこのアノマリーを解明するために行われました

アクルーアルが大きいと将来のリターンが悪くなる理由

アクルーアルが大きいと将来のリターンが悪くなる理由は、概ね以下のように説明されます。

まず、アクルーアルの構成要素の1つである利益は操作が可能です。

一方でキャッシュフローは操作が困難です。

つまり、アクルーアルが大きいということは、会計操作により利益を水増ししている可能性が考えられるのです。

もちろん、アクルーアルの大きい全ての企業が会計操作をしているわけではありませんが、アクルーアルが大きい企業群を見ると、一定数そのような企業が含まれているということです。

利益は操作可能ではあるものの、未来永劫水増しすることはできません。

つまり、水増しした分は、どこかのタイミングで減らさなければいけないのです。

そして、その水増し分の利益を減らす過程において、その企業のパフォーマンスが悪化します。

以上がアクルーアルが大きいと、将来パフォーマンスが悪化する傾向がある理由になります。

アクルーアルアノマリーのパズル

上記の理由を見ると、アクルーアルが大きいと将来のパフォーマンスが悪化するのは必然のようにも思えてきます。

しかしながら話はそう単純ではありません。

もしアクルーアルが将来のパフォーマンスを悪化させるのであれば目ざとい投資家はその関係性を利用して儲けようとするはずです。

例えば、そもそもアクルーアルが大きい企業を敬遠したり、ショートしたりすることで、このようなアノマリーは消失するはずです。

しかし、現実には、1996年に論文が発表された後も、アクルーアルアノマリーはしばらくの間観測され続けていました。

これがいわゆるアクルーアルアノマリーのパズルです。

アクルーアルアノマリーパズルの背景

なぜこのようなパズルが発生するのでしょうか?

その背景には以下の2つの仮説が考えられます。

  • 裁定の限界
  • 投資家の情報の偏り

裁定の限界

アノマリーがあると知っていても、必ずしも現実的にそのアノマリーを活かすことができるとは限りません。

よくある理由の1つは裁定の限界です。

例えば、アクルーアルアノマリーを利用しようとするのであれば、アクルーアルの大きい銘柄をロングし、逆の銘柄をショートするということが考えられます。

しかしながら、このポジションには別のリスクも紛れ込んできてしまいます。

銘柄Aをロングし、銘柄Bをショートする場合、AとBがアクルーアル以外の部分のリスクエクスポージャーが同じであれば、ロングショートによりアクルーアル以外のリスクを排除したピュアな裁定を行うことが可能です。

しかし現実にはこのような都合の良い銘柄というのは存在せず、このようなロングショートを組もうとするとアクルーアル以外の部分のリスクも取ることになってしまいます。

つまり、ピュアにアクルーアル部分だけの裁定を行うのは難しいのです。

またもう一つの視点として、銘柄をショートする際には貸株のコストがかかります。

このコストの存在により、パフォーマンスが劣化し、場合によってはアルファが消失します。

このような裁定の限界により、アノマリーが解消されず、残り続けると言われています。

投資家の情報の偏り

投資家の情報の偏りもアクルーアルアノマリーを説明する1つの仮説になっています。

例えば、ファンドマネージャーは会社の利益は非常によく見ていますが、キャッシュフローについてはそれほどよく見ていないというケースがあります。

このような場合には、当然利益とキャッシュフローの差分のアクルーアルまでは目が行き届いていないため、アノマリーは残り続けることになります。

また、興味深い例として国による情報の偏りの違いもあります。

日本のファンドマネージャーは利益を良く見ますが、米国のマネージャーはキャッシュフローをより重視します。

つまり国により重視する情報が異なっているのです。

このように見ている情報の偏りが、アクルーアルアノマリーを生む背景の1つにあると考えられています。

近年は有効性が低下

これまでアクルーアルアノマリーについて述べてきましたが、実は近年アクルーアルアノマリーは低下してきています。

なぜ効かなくなったのかはこれもまた難しいところですが、アノマリーというのはその存在が知られるほど効かなくなるのはよあることです。

アクルーアルに関しては、スローンの論文が出た後もしばらくは有効であったのですが、おそらく投資家が利益とキャッシュフローを複眼的に見るようになったこと、そしてアクルーアルアノマリーが知られ、一部の投資家が利用し始めたことがその背景にあるのではないかと思います。

アクルーアルは利益の質を測る指標

アクルーアルが将来のパフォーマンスに対する影響を失ったからといって、アクルーアルに利用価値がないわけではありません。

アクルーアルというのは、基本的に利益の質を測るための指標です。

既に述べたように、利益を増やすような操作をしていると、アクルーアルは大きくなります。

一方で、通常の状態においては、

利益<キャッシュフロー

という関係になるため、アクルーアルはマイナスになります。

つまりアクルーアルからその利益の質がわかるのです。

アクルーアルがプラスに大きい場合には、その利益の質は低いと言えます。

一方でマイナスであれば、その利益の信頼性は相対的に高いと言えます。

このように、アクルーアルは、「利益の質」を見極めるための1つの指標となるのです。

スマートベータのクオリティに含まれる

近年流行のスマートベータの文脈で言うと、アクルーアルは「クオリティ」というカテゴリーに含まれます。

クオリティには、

  • ROEの水準(高い方がいい)
  • ROEのボラティリティ(低い方がいい)
  • ROEのEの質(つまりアクルーアル

などが含まれます。

つまり、ROEの水準が高く、かつ安定的で、アクルーアルが低いほど、その銘柄のクオリティは高いと見なせるのです。

少し前に登場したJPX日経400指数はクオリティ指数の仲間になりますが、この指数はROEの水準を基準としたものですね。

このように、近年ではアクルーアルは「クオリティ」を測るための1つの尺度として活用されることが増えてきています

アクルーアルアノマリーのまとめ

アクルーアルアノマリーについてまとめます。

まずこのアノマリーが発表されたのは、1996年のThe Accounting Review誌に掲載されたRichard Sloanの論文です。

ここで述べられているのは、アクルーアルが大きいほど、将来のパフォーマンスが悪化し、逆に小さい程パフォーマンスがいいという関係性です。

この関係性はその後もしばらく観測され、長年パズルとされてきました。

しかしながら、近年では、このアクルーアルアノマリーも観測されなくなってきています。

近年においては、スマートベータの一種として「クオリティ」に着目した投資が行われており、アクルーアルはこのクオリティを構成する要素の1つとなっています。

つまり、利益の質を見る際に活用される指標となっています。

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