新興国株式のバリュエーションが構造的に低い3つの理由

クオンツ新興国株式のバリュエーションは先進国に比べ歴史的に低いです。

ここでいうバリュエーションは、PBRやPERといった一般的な評価指標を指していて、これらの指標が歴史的に割安であるということです。

新興国自体は先進国より成長率が高いため、バリュエーションが高くなりがちと思われることも多いです。

しかしながら、少なくとも過去数十年においては平均的に新興国の方がバリュエーションが低くなっています。

ここでは新興国株式のバリュエーションが低く評価される3つの理由をご紹介します。

ガバナンスの問題

新興国では、相対的に企業のガバナンスがしっかりしていません。

ガバナンスというとかなり広い意味にとることができますが、ここでの問題は特に投資家保護の観点からガバナンスが脆弱であることです。

ガバナンスがしっかりしていないと、投資家からするとリスクが高くなるため、結果として低いバリュエーションで評価されることに繋がります。

主なガバナンスの問題は、更に以下の3つに集約することができます。

国営企業が多い

国営企業が多いのは新興国の特徴の1つです。

その国の基幹を担うような企業の場合、株式の多くを政府が保有し、事実上政府が統治している場合も多々あります。

このような企業の場合、政府の方針次第で業績や株価はどうにでもなってしまいます。

最悪の場合、政府が外部の投資家を締め出すと、強制的に株を手放させられることになります。

国営企業が多いと、健全な競争が促されず、効率化や技術革新が起こりにくいという点もマイナスです。

財閥・同族企業が多い

財閥や同族企業が多いことも新興国の特徴です。

韓国やメキシコなどがわかりやすい例ですが、財閥があまりにも力を持ちすぎると、株式マーケットがその財閥の一本足打法のようになってしまいます

また同族の持ち株比率が高すぎると、少数株主の権利が阻害されるという負の側面もあります。

健全な競争を促すという意味でも、財閥・同族企業が多いことは好ましくありません。

自国民と外国人投資家を別に扱う

例えばインドやタイといった国では、株式を買う場合に自国民か、それとも外国人かが区別されます。

つまり自国用と外国用の2つのマーケットが存在するような状態です。

近年では徐々に改善されてきていますが、中国の本土株(いわゆる中国A株)も基本的に外国人が購入することは困難でした。

このように外国人を別枠で扱うことは、公平性の観点から好ましくなく、その国の株式の魅力を下げることに繋がります。

先進国の影響を大きく受ける

徐々に改善はされつつありますが、未だに世界は先進国を中心に回っています。

これは別の見方をすると、新興国の経済状況は先進国次第ということです。

昔はデカップリングといって、新興国は先進国とは独立に成長していけるという考えが一時期流行ったこともありました。

しかしながら、これだけ密接に国と国とがつながった世界においては、経済規模が小さい国は、大きい国の影響を受けざるを得ません。

先進国が好調であれば、新興国も好調になり、不調であれば不調になります。

逆に、新興国が好調なので先進国も好調になるというパスはほとんどありません。

結局のところ、新興国は先進国の影響を強く受け、先進国の従属国のような振る舞いをしてしまうため、バリュエーションが低く評価されてしまうのです。

マーケットの脆弱性

新興国のマーケットは概して脆弱です。

マーケットの規模自体が小さいということが第一ですが、それに加えて上記のように先進国の影響を受ける、ガバナンスがしっかりしていないという点も脆弱性に繋がっています。

アメリカの金融政策の影響が、アメリカ以上に新興国に影響を与えるという点も脆弱性を示す証拠の1つになります。

当然マーケットが脆弱だとリスクが高くなるため、投資家から敬遠されやすくなります。

するとバリュエーションも低く評価されることになります。

新興国の発展に伴い、マーケットの脆弱性も徐々に解消されてきていはいますが、それでもまだまだ先進国に比べると弱いです。

まとめ

新興国株式は歴史的にバリュエーションが低く評価されてきていますが、その背景には以下の3つの理由があります。

  • ガバナンスの問題
  • 先進国の影響
  • マーケットの脆弱性

どれも大きな問題ですが、投資家として一番気になるのはガバナンスです。

新興国の独占的な企業が自国を優遇するあまり、少数株主(主に外国人投資家)がないがしろにされるということはよくあります。

例えば利益を出そうと思えば出せるのに、費用勘定を膨らませて利益を圧縮したり、また利益を出したとしても株主には還元せず、ひたすら内部留保して健全でない活動(豪華な社長室や美しすぎる秘書など)に使われたりといったことはしばしば耳にします。

このような状況が改善されて行かない限り、新興国の株式が先進国並みに評価される日はなかなかこないのではないでしょうか。

概してその経済成長率に比べ、新興国の株式パフォーマンスは悪すぎます。

この両者のギャップに、上記のような理由が存在していると解釈することができます。