直感的にはリスクが高い分、期待リターンも高そうですが、実際の数字はあまり目にすることはありません。
ここでは、新興国債券と株式の期待リターンを算出してみます。
新興国の期待リターン算出の難しさ
新興国資産の期待リターンを推定するのは他の資産に比べ少し難しいところがあります。
というのは、ここ数十年で新興国は大きく構造が変化したため、過去のデータを参照することがあまり適切ではなくなってしまったからです。
90年代は新興国は総じて脆弱でしたが(アジア通貨危機という大きな危機もありました)、2000年代の大きな経済成長により、各国とも以前と比べて驚くほど健全な体質になりました。
経済成長とともに財政収支は改善し、外貨準備金も潤沢になり、1人当たりGDPも大きく増えました。
特に財政収支に関しては今ではむしろ先進国より優等生です。
そのため、新興国の期待リターンを考える際には、過去のデータを参考程度に留め、現在の状況をより重視していきたいと思います。
新興国債券(ドル建て)の期待リターン
2種類の新興国債券
新興国債券には現地通貨建てとドル建ての2種類がありますが、為替が統一されていてわかりやすいため、ここでは、ドル建ての新興国債券について考えます。
新興国債券の種類について知りたい方は以下の記事をどうぞ。
関連記事:新興国債券の現地通貨建てとドル建ての違い
新興国債券の利回り
かつては新興国債券の利回りは軽く10%を超える時期もありましたが、新興国の成長・健全化とともに利回りは下がってきています(言い方を変えると、脆弱性によるプレミアムが剥離してきています)
リーマンショック後の超金融緩和時代においては、利回りを追い求める動きが強く、一時期5%を下回るまで低下しましたが、足元では6%程度の利回りとなっています。
過去20年程を振り返ると6%という利回りはかなり低い水準ですが、現在の新興国の状況を踏まえると、それほど違和感のある数字ではありません。
そのため、この利回り6%をそのまま期待リターンとして使用します。
為替調整項
ここで対象としている新興国債券はドル建てです。
つまり、ドル/円の為替リスクをとっているため、この為替の部分を調整する必要があります。
為替を調整するには、単純にヘッジする際のコストを勘案すればよいだけです。
ここでは、
- 日本の短期金利:1%
- 米国の短期金利:2%
と想定します。
すると、為替調整項は
為替調整項=1%-2%=-1%
となります。
つまり、長期的には為替は年率1%で円高になるか、もしくはヘッジコストが1%と想定していることになります。
期待リターン
以上を勘案すると、新興国債券(ドル建て)の期待リターンは以下のようになります。
期待リターン=利回り6%+為替調整項-1%=5%
新興国株式の期待リターン
期待リターン算出式
新興国株式の期待リターンは、債券の期待リターンをベースに、そこにリスクプレミアムを足しこんで算出します。
つまり、
期待リターン=新興国債券の期待リターン+リスクプレミアム
となります。
期待リターンの水準
新興国債券の期待リターンは上述の5%、債券に対する株式のリスクプレミアムはこれまで日本株や外国株で用いたのと同様に3.5%とします。
ゆえに、
期待リターン=新興国債券の期待リターン5%+リスクプレミアム3.5%=8.5%
となります。
期待リターンまとめ
期待リターン | |
短期金利(国内) | 1.0% |
国内債券 | 1.5% |
国内株式 | 5.0% |
短期金利(外国) | 2.0% |
外国債券 | 2.5% |
外国株式 | 6.0% |
J-REIT | 5.0% |
外国REIT | 6.0% |
新興国債券 | 5.0% |
新興国株式 | 8.5% |
これまで算出してきた各資産の期待リターンに新興国を追加しました。
いわずもがなですが、全資産で新興国株式の期待リターンが最も高くなっています。
また、新興国債券は国内株式、J-REIT並みの期待リターンとなっています。
意外な資産が、同じくらいの期待リターンを持っていることが確認できます。