新興国債券の「現地通貨建て」と「ドル建て」の違いを理解し投資に活かす

バリュエーション

新興国債券への投資を考える際には、2種類の債券が存在することを知っておく必要があります。
1つは現地通貨建ての債券で、もう一つは米ドル建ての債券です。

この2つは共に新興国の債券ですが、その特性は特に為替を中心に異なります。

ここではこの2種類の債券の違いと共に、投資にどう活かしたらよいかをご紹介します。

2種類の新興国債券

新興国の債券には、「現地通貨建て」と「ドル建て」の2種類が存在します。

なぜ同じ新興国の債券なのに、為替の異なる2種類の債券が存在するのでしょうか。

まずは以下がその2種類の違いの概要です。

現地通貨建て新興国債券

現地通貨建ての債券とは、債券をその国の通貨で発行しているものを指します。

例えば、ブラジルであればブラジルレアル建ての債券となります。

ここで重要なのは、この債券に投資する際にはブラジルレアルという為替のリスクも内包されているということです。

要するにその国の債券と通貨両方のリスクをとっているのが現地通貨建て債券となります。

米ドル建て新興国債券

一方で米ドル建て債券はこれとは異なる特徴を持ちます

ブラジルの例でいくと、ブラジル政府が発行した債券という点では同じですが、通貨を米国ドル建てで発行しているという点が異なります

つまり債券部分はその国のリスク、通貨部分は米ドルのリスクとなります。

両者では、為替部分のリスクが異なるというのが、違いのポイントになります。

為替の異なる2種類の債券が存在する理由

かつてはドル建て債券がスタンダード

このように債券部分と為替部分が異なる金融商品が存在するのには歴史的な背景があります。

かつては新興国の為替は非常に脆弱で、投資家からすると非常にリスクが高いと考えられていました。
(1990年代のアジア通貨危機が代表的な例ですね)

そのため、なんとか投資家に自国の債券を買ってもらう(資金を調達する)ために、信用力の高い米ドル建てで債券を発行するというのがかつての新興国の慣習でした。

そのため、昔であれば新興国はドル建てで債券を発行するのが通常でした。

自国の通貨に信頼性が乏しかったので、ドル建てにしないと投資家に債券を買ってもらえなかったのです。

2000年代から自国通貨建ての債券が増加

しかしながら、2000年代になると新興国は大きな成長を遂げ、信用力も向上してきました。

そして投資家からの信頼も得られるようになり、徐々に自国通貨建てで債券を発行するようになりました

ただし、米ドルに比べると、新興国の通貨は依然として信用力では劣るため、米ドル建ての債券もあれば、現地通貨建て(自国通貨建て)の債券もあるというのが2000代からの流れです。

新興国の存在感が増すにつれ、トレンドとしては自国通貨建ての債券が年々増えては来ていますが、やはり米ドルの信用力は大きいので、依然として米ドル建てでの発行も行っているというのが今の状況です。

2種類のインデックスファンド

具体的なファンドでいうと、例えば三井住友トラストアセットのSMTシリーズでは、

  • SMT 新興国債券インデックス・オープン

が現地通貨建ての債券で

  • SMT 米ドル建新興国債券インデックス・オープン(為替ヘッジあり)

が米ドル建ての債券となります(名前に入っていますね)

後者の方は、米ドル建てですので為替のヘッジも容易です。

そのため、ファンドも為替ヘッジありになっています。

また、各国により現地通貨建て、米ドル建ての発行額は異なりますので、当然両インデックスの構成比率も異なるものになります

新興国債券へ投資する際は、その債券がどのようなリスクを内包していて、インデックスはどのような構成になっているかを把握しておくことをおすすめします。

ドル建てと現地通貨建てではリスクが違う

実際に投資するにあたって意識しなければならないのは、2つの債券の違いにより、リスクにどのような違いが生まれるかということです。

同一の国が発行した債券の場合でも、「ドル建て」と「現地通貨建て」だと投資家から見たリスクが異なります。

現地通貨建ての方がリスクが高い分高利回り

米ドルは世界で最も信用力の高い通貨のため、もし利回りが同じであればすべて資金はドル建ての債券へ流れてしまいます。

そのため、一般的にはドル建ての債券より現地通貨建ての債券の方が利回りが高くなっています(為替リスク分のプレミアムが乗っているわけですね)

ただ、ここ数年は新興国の信用度が上がってきているため、「ドル建て」と「現地通貨建て」でそれほど利回りの違いは大きくなくなってきています
(むしろ財政収支という観点からすると、昨今は先進国より新興国の方が優等生です)

むしろ、「ドル建て」と「現地通貨建て」の利回りの差から、その国の信用リスクをある程度推計することも可能です。

ドル建て債券にはドル高リスクがある

また、「ドル建て」と「現地通貨建て」では、後者の方がリスクが必ず高いかというと一概には言えない部分もあります。

例えば、「ドル建て」で債券を発行した場合、借金の返済は当然「ドル」で行うことになります。

ところが、このドルが強くなってしまうと、債券の発行国からすると実質的にドル建てで支払う借金が膨れあがてしまうことになります。

その結果、借金の返済が厳しくなり、最悪の場合デフォルトする可能性も出てきます。

米国の利上げが意識されはじめてから、ドルが買われると同時に新興国の株式や債券が売られましたが、その背後にはこういう事情も影響しているわけです。

新興国債券の特徴まとめ

以上、2種類の新興国債券の特徴をまとめると以下のようになります。

  • 「現地通貨建て債券」はその国の為替リスクを持った債券
  • 「ドル建て債券」は米ドルの為替リスクを持った債券
  • 新興国の通貨より、米ドルの方が信用力が高いため、基本的に「現地通貨建て」の方が利回りが高い
  • ドル高はドル建ての債券の返済額の増加を意味するため、新興国の売り要因になる

まあざっくりいってしまうと、

  • 新興国の為替リスクを負っても高い利回りがほしい人⇒「現地通貨建ての債券」
  • 為替リスクを米ドルのみに抑えたい⇒「ドル建て債券」
  • 為替リスクを全くとりたくない⇒「ドル建て債券(為替ヘッジ付き)」

ということになります。

当然下に行くほどリスクが抑えられる分、利回りも低くなります。

選択肢は3つあるので、リスクを理解したうえで、自分にあったタイプに投資すればよいと思います。