日本債券、外国債券の期待リターンの算出方法と推定値

債券

債券の期待リターンの算出は、株式に比べると容易です。

債券には何といっても利回りという期待リターンのベースとなる数字があるため、そこからその他の要因を調整していけばよいからです。

ただし、外国の債券となると、為替の要因も入ってきますので、話は少しややこしくなります。

ここでは、日本債券と外国債券(先進国債券)の算出方法と、実際の推計値をご紹介します。

日本債券の期待リターン

日本債券の期待リターンは、基本的に長期金利の水準で決まります。

そして、この長期金利の水準は、短期金利と長短金利差という2つの要素に分解できます。

つまり、

期待リターン=短期金利+長短金利差(長期金利と短期金利の差)

と考えます。

短期金利(国内):1%

現在の短期金利は0%付近ですが、将来的に金融緩和が正常化していく過程において、短期金利が上がると考えるのは自然です。

しかしながら、今後の日本の人口動態を考えると、大きな需要が発生することは考えにくく、従ってインフレ率も低位にとどまると考えます。

これらを踏まえ、短期金利は1%程度と想定します。

(インフレ率と短期金利には密接な関係があります。歴史的に見ても短期金利≒インフレ率は概ね成り立ちます)

長短金利差

長短金利差は相場付きにより変化しますが、過去を紐解くと概ね1%程度です。

ここではシンプルにこの1%という数字を使います。

期待リターン

期待リターン=短期金利+長短金利差(長期金利と短期金利の差)

に上記の2つを当てはめると、

期待リターン=短期金利1%+長短金利差1%=2%

となります。

シンプルにこの数字を期待リターンとしてしまってもいいのですが、もう少し精緻にします。

金利上昇によるキャピタルロス

2018年現在の金利水準は10年でも0%近傍です。

この水準は歴史的に見て以上に低く、将来を長期的な視点で見ると、金利上昇によるキャピタルロスが想定されます。

上記において、長期金利を2%と想定しました。

現在の状態から長期金利が2%に上がる過程では、ざっくり15%程度のキャピタルロスが発生します。

※(ーデュレーション×金利上昇率)で求まります。

これを今後30年かけて償却していくと仮定して、1年あたり0.5%のキャピタルロスが発生します。

ゆえに、

期待リターン=短期金利1%+長短金利差1%ー金利上昇によるロス0.5%=1.5%

とします。

外国債券の期待リターン

外国債券の期待リターンは、長期金利の水準に加え、為替による影響も考える必要もあります。

つまり、

期待リターン=短期金利+長短金利差(長期金利と短期金利の差)+為替調整項

と考えます。

短期金利(外国):2%

外国の短期金利は日本より高い2%とします。

日本より外国の方が経済成長率が高く、需要も強いため、インフレ率も将来的に日本より高い状態が続くと考えられます。

また、人口動態も外国の方が有利です。

そのため、短期金利に差をつけ、外国は2%とします。

長短金利差:1.5%

長短金利差は日本においては1%と仮定しました。

一方で、歴史的に見ると、外国の方がイールドカーブが立っている(長短金利差が大きい)傾向があります

そのため、日本より少し大きい1.5%とします。

為替調整項

短期金利の差分は長期的には為替によって調整されます。

短期金利が大きい方が、長期的にはその国の通貨は売られやすいのです。

この辺りは購買力平価とも関係するのですが、ここでは深入りしません。

シンプルに短期金利の差分を為替調整項とします。

為替調整項=日本の短期金利1%ー外国の短期金利2%=-1%

つまり、長期的には年率1%で円高が進む、もしくは為替をヘッジするとヘッジコストが1%となることを示しています。

期待リターン

以上を踏まえると、外国債券の期待リターンは以下のようになります。

期待リターン=短期金利2%+長短金利差1.5%+為替調整項-1%=2.5%

日本債券と外国債券で期待リターンが異なる理由

理論上は、日本債券と外国債券の期待リターンは同じになるはずです。

というのは、もしどちらかが有利であれば裁定が働き、結局同じ水準に落ち着くはずだからです。

しかしながら、ここで求めた期待リターンには少なからぬ差があります。

この要因は以下の2つで説明できます。

長短金利差の違い

日本では長短金利差を1%としましたが、外国債券では1.5%としました。

この差分の0.5%分が、期待リターンの違いを生んでいます。

キャピタルロスの想定

日本ではより精緻に期待リターンを算出するため、将来的な金利上昇も踏まえてキャピタルロスを想定しました。

一方の外国債券では、このような想定は置きませんでした。

昨今のグローバルな超低金利を踏まえると、外国でも金利上昇によるキャピタルロスを想定してもよいのですが、

  • (平均的には)外国の方がまだ日本より金利は高い
  • マルチカントリーにおけるキャピタルロスの推定は難しい

という理由から、この部分は特に考慮しませんでした。

このことにより、0.5%の期待リターンの差分が生まれています。

GPIFとの比較

これまで求めた期待リターンをGPIFの想定と比較してみます。

  GPIF市場
基準ケース
著者算出
短期資産 1.0% 1.0%
国内債券 2.0% 1.5%
国内株式 5.2% 5.0%
外国債券 3.5% 2.5%
外国株式 6.2% 6.0%

結果的にそれほど違いはありませんが、一番大きいのは外国債券の変化でしょうか。

外国債券が3.5%から2.5%になったことにより、内外の債券の期待リターンの差が1.5%から1%へ調整されています。

そもそものGPIFの外国債券の期待リターンは高すぎると感じているため、個人的にはこちらの数字(2.5%)方がしっくりきます。

関連記事:日本株、外国株の期待リターンの算出

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