新興国株式の位置づけは時代と共に変わってきています。
かつて1990年代は個人投資家にとっては非常に投資が難しい資産でしたが、2000年代から主として投資信託の普及により、新興国株式はより身近な存在となってきました。
また新興国株式自体も、時代と共にその特徴や魅力が変わってきています。
ここでは新興国株式の過去の変遷と共に、新興国株式に投資する最適なタイミングをご紹介します。
2000年代中盤:BRICSの時代
2000年代中盤頃は非常に新興国がもてはやされ、パフォーマンスも非常に良好な時期でした。
ゴールドマンサックスアセットマネジメントのジムオニール元会長が今後の成長国としてBRICsを提唱したのもこの頃です。
しかしながら、残念なことにこの時期にはまだ新興国株式へ投資するコストフレンドリーな投信は存在しませんでした。
もちろん新興国へ投資する投資信託は存在していましたが、それらはこぞってアクティブファンドであり、コストも2%程度がざらでした。
また、新興国株式の場合、売買コストやカストディフィーなど、追加でかかるコストも大きいため、実質的には3%~4%の年率コストを支払う必要がありました。
いくら新興国が魅力的でも、これはコスト的にちょっと許容しにくい水準です。
もちろん機関投資家であればより低いコストでの投資は可能でしたが、個人投資家にとってはBRICSのパフォーマンスを安価に実現できるようないいファンドが存在しませんでした。
そのため、この時期に新興国の良好なパフォーマンスを取り込めた個人投資家は非常に少なかったのではないかと思います。
リーマンショックによる大暴落
2000年代半ばは非常に好調な新興国株式でしたが、リーマンショック時には大きく売り込まれました。
この時は先進国株式も大きく売り込まれ、概ね半分くらい下落しましたが、新興国のほうがよりやられ方が大きかったです。
国によっては8割程度下落するようなところもありました。
100万円投資していたら、20万円くらいになったということですね。
新興国株式の場合、ショック時には株式と共に為替も大きく売り込まれるため、先進国より傷が深くなる傾向にあります。
リーマンショックからの戻り
リーマンショックにより新興国株式はこぞって大きく売り込まれましたが、逆にその戻りも早かったです。
特に中国の大規模な財政出動などもあり、底値からの戻りは早く、2010年頃にはリーマンショック前の水準まで戻していました(ドルベース)。
この頃は、デカップリング論(新興国の成長は堅調で、先進国の低成長の影響は受けないというある種の新興国楽観論)がもてはやされた時期で、パフォーマンスにも大きな差が出た時期でした。
実際にサブプライムに投資をしていたのはほとんど先進国でしたし、また危機的な状況に陥った金融機関も先進国が中心だったため、新興国に対しては楽観的な見方もあったわけです。
しかしながら、このデカップリング論は振り返ると大きな間違えで、その後新興国株式は苦難の時代を迎えます。
ヨーロッパ債務危機
2010年頃にはリーマンショックから大きく株価は回復した新興国ですが、ヨーロッパ債務危機の発生により再び売り込まれることになります。
震源地はヨーロッパの先進国で、新興国はほとんど関係ないのですが、とばっちりを受ける形となりました。
ヨーロッパ債務危機を受け、投資家はリスク回避的になります。
するとリスクの高い資産を売り、安全性の高い資産へ資金を移動させようとします。
いわゆる質への逃避です。
新興国株式は典型的なリスクの高い資産のため、このような環境になると真っ先に売り込まれます。
つまり新興国が震源地ではない危機でも、新興国は往々にしてその影響を被る運命にあるのです。
まあ逆の見方をすれば、このような場合には新興国がファンダメンタルズに関係なく売られるため、安く仕込めるチャンスと見ることもできます。
バーナンキショック
ヨーロッパ債務危機後はさえない展開の続いた新興国株式でしたが、そこにさらに追い打ちをかけたのが2013年5月のバーナンキショックです。
バーナンキショックとは、当時アメリカのFRBの議長であったバーナンキが量的緩和のテーパーリング(買い入れ額の縮小)を示唆したことで、マーケットが荒れたイベントです。
この時はアメリカの長期金利の急上昇と共に、新興国の株式、債券、為替が一斉に売られました。
バーナンキショックで新興国が売られるメカニズム
ではなぜアメリカのテーパリングにより新興国の資産がこぞって売られたのでしょうか。
そこには以下のようなメカニズムがあります。
- 量的緩和の縮小が意識されることで、米国の金利が上昇
- 米国の金利上昇により、米ドル高となり、相対的に米国の資産が買われる
- 更に米ドル高はドル建ての債務を多く負う新興国にとって、債務の拡大となる
- 新興国の信用力が低下し、売られる
大まかにはこのような流れになります。
このバーナンキショックを受け、新興国株は売り込まれ、また経済成長率も鈍化していきました。
この頃から新興国株に対する楽観論が薄れ、注意すべき資産という位置づけへと意識が変わっていったように思います。
チャイナショック
そして2015年にはチャイナショックと呼ばれる危機が発生し、これも新興国株式の売りへとつながりました。
このチャイナショックは中国の本土株が暴落したことに端を発したわけですが、これだけではなく、以下のような事象が新興国全体へと影響しました。
- 中国経済の減速
- 石油価格をはじめとする商品価格全般の下落による資源国への悪影響
- 米国の利上げによる資金流出懸念
引き金は中国のマーケットでしたが、内情としては上に上げた通り、いくつかの要因が複合的に影響しあったものです。
この時も新興国株式は大いに売り込まれ、バリュエーション的にはリーマンショック後で最も割安な水準にまで落ちこみました。
個人投資家の中には、この頃から新興国への投資に見切りをつけ、先進国株や特に米国株への集中投資が流行り始めたように思います。
ただ後から振り返ると、この頃の新興国株は明らかに割安で、その後値を大きく戻し2017年頃には先進国を上回るパフォーマンスを上げるようになっています。
投資に魅力的なタイミングは循環する
このように2000年以降を振り返ると、適切な投資タイミングは4回ありました。
- 2000年代半ばまでの新興国株式が注目され始めた時期
- リーマンショック後
- バーナンキショック後
- チャイナショック後
このように見てみると、いかに危機時は投資タイミングとして適切かがわかります。
危機時というのは往々にしてみな腰が引け、むしろ新興国株式などのリスクの高い資産は売りたがります。
このような状況の中で、大衆のセンチメントに抗い、買い向かえる投資家が大きなリターンを得られるわけです。
まさにピンチはチャンスです。
この言葉、まさに投資のためにあるようなものです。
もう一度言います。
「ピンチはチャンスです」
マーケットが弱気一辺倒で売り込まれている時にこそ、投資家としての真価が問われることになります。