株式マーケットの暴落を予測する指標「逆イールド」

投資マーケットの暴落を的中させることは容易ではありません。

いや、不可能といった方がいいかもしれません。

かつてマーケットの暴落に対処するために、様々な本や論文を調べましたが、満足する結果は得られませんでした。

どれもデータのフィッティングの問題で、問題設定の置き方、暴落の定義の仕方によっていくらでも暴落を予測することができるようなモデルは作れてしまうんですね。

もちろんそれらのモデルはなんちゃってモデルに過ぎません。

ただ、確実に予測できるわけではありませんが、過去のデータに照らして暴落の強いサインになる指標はあります。

それが「逆イールド」です。

この逆イールドは、ただ過去の暴落を当てたというだけでなく、その背後には合理的な理由も存在します。

なおここで対象としている金利は、米国の金利です。

金融マーケットは米国を中心に動いているため、金利についても米国を見れば概ね世界の動きを把握することができます。

逆イールドとは

逆イールドというのは債券市場の状態の1つを指します。

まず、債券にはイールドカーブという年限に応じた利回り水準を結んだ曲線があります。

一般的に残存年数が短いほど利回りは低くなるため、イールドカーブは緩やかな右肩上がりの曲線を描きます。

この曲線の傾きは、短期金利に比べ長期金利が高いとスティープ(勾配が急に)なり、その逆の場合はフラット(平たん)になります。

逆イールドというのは、この短期金利と長期金利の関係が逆転し、長期金利が短期金利より低い状態を指します。

イールドカーブと景気の関係

債券のイールドカーブと景気には密接な関係があります。

逆イールドと暴落の関係の前に、まずはこの景気の局面とイールドカーブの関係を押さえておく必要があります。

景気回復局面

景気回復局面は、景気が底打ちしてから回復していくまでの局面になります。

株式のパフォーマンスはこの局面が最も良好なことが知られています。

景気回復局面においては、企業の資金需要が増えるため、長期金利は上がっていきます。

つまり、イールドカーブはスティープニング(傾きが急になる)します。

景気過熱局面

景気過熱局面は、景気が過熱し、局所的にバブルが発生しているような状態を指します。

このような状態においては、中央銀行が景気の過熱を冷やすため、短期金利を上げていきます。

つまり、イールドカーブはフラットニング(平坦化)します。

短期金利の上昇に比べ、長期金利の上りが鈍い場合、この局面で逆イールドの状態となることもあります。

景気減速局面

景気減速局面は、行き過ぎた景気が修正され、景気が減速していく局面になります。

景気減速局面においては、中央銀行の利上げがピークアウトします。

また、長期金利については、資金需要の低下が見られ、利回りは横ばいから低下へと転じます。

つまり、イールドカーブは更にフラットニングし、場合によっては逆イールドとなります。

本項で本題としている逆イールドの状態が表れるのは、景気過熱~減速局面ということになります。

景気後退局面

景気後退局面は、その名の通り景気が後退する局面です。

一般的に景気が悪いと言われるのはこの局面になります。

景気後退局面においては、後退した景気を刺激するために、中央銀行が利下げを行います。

一方で資金需要が低下し、また安全資産として債券が買われることで、長期金利は低下します。

つまりこの局面においては短期金利、長期金利ともに低下することになります。

ただし、その低下の速度と幅は短期金利の方が大きいため、全体的な金利水準は低下するものの、イールドカーブはスティープ化します。

逆イールドがなぜ暴落を示唆するのか

上記のように、逆イールドは景気が過熱し、短期金利が十分に上がった状態で起こります。

逆イールドというのはつまるところ過熱しすぎた景気を冷やすために中央銀行が作り出した状態なので、遅かれ早かれ景気が減速することになるのです。

そして、景気の減速の兆候を株式マーケットが素早く織り込み、暴落するのです。

過去の逆イールドの局面。ITバブルとサブプライム

1990年以降では、逆イールドとなった局面は2回あります。

1つは1990年代終わりで、もう1つは2007年頃です。

ITバブルの崩壊

1990年代終わりの逆イールドは、いわゆるドットコムバブルに対応するために、中央銀行が利上げを行ったことで起こりました。

実際に利上げは2000年初頭まで行われ、最終的には6.5%にまで達しました。

この時に逆イールドとなり、まさにこの数か月後からITバブルは崩壊し、株式が強烈に売り込まれます。

サブプライムショック

次に逆イールドとなったのは、2006年~2007年にかけてです。

この時は行き過ぎた住宅バブルを冷やすために、金利を徐々に引き上げていき、最終的には5%台に達しました。

ご承知の通り、その後2007年のサブプライム危機、2008年のリーマンショックを経て株価は大きく下落しました。

この時はITバブルの時よりも暴落までの時間は長かったですが、それでも逆イールドになってから1年程でマーケットは変調をきたしています。

2回中2回を予測

1990年以降で逆イールドとなったのはこの2回だけです。

つまり、逆イールドは90年代以降の2大暴落を予測していたことになります。

まあサンプル数があまりにも少なすぎて正確性には欠けますが、少なくとも

政策金利(短期金利)上昇⇒景気減速⇒株価の暴落

というサイクルは、歴史的に繰り返されてきた事象になります。

逆イールドに近づいてきたら警戒態勢を

過去2回の暴落を2回とも逆イールドは予測していたことになりますが、もちろん今後も必ず当てはまるとは言えません。

大事なのは、政策金利が引き上げられ、逆イールドに近づくにつれて景気減速のリスクが高まるということです。

そして景気減速の兆候が見え始めると、即座に株式マーケットは反応し、売り込まれることになります。

そういう意味では、必ずしも逆イールドにまでなる必要はなく、ある程度政策金利が上がった段階で要注意とも言えます。

その一方で難しいのは、逆イールドになったからといって即座に暴落が起こるわけではないということです。

ITバブルの頃には、逆イールドから1年以内に暴落が起こりましたが、サブプライムの時には暴落と言える状態になるまでには2年くらいかかっています。

つまり逆イールドという状態は要注意なのですが、実際にいつ暴落するかはピンポイントではわからないのです。

バブルというのは想像するよりも長く続くことがあります。

流石に今のバリュエーションは高すぎるだろうと思っていても、そこから更に上がっていくということも多々あります。

このようにマーケットというのは気まぐれなものなので、ある事象が起こるタイミングをピンポイントで当てるのは不可能なのです。

逆イールドになったらリスクを落とす

ではどうしたらよいかというと、逆イールドに近づいたら、もしくは完全に逆イールドの状態になったら、ポートフォリオのリスクを落とすということです。

今の上昇がどの程度続くかはわかりません。

しかし、シグナルとしては警戒サインが出ている。

このような場合には、全てキャッシュ化してしまうと予想以上に続いたバブルに乗り損ねるリスクがありますし、一方でいずれマーケットの調整や暴落がやってくるのがわかっていてリスク性資産に全力投球するのはあまりにも稚拙です。

「どうもマーケットが行き過ぎていて、逆イールドという景気が減速するサインも出ている」

このような時にはある程度マーケットについて行きながら、暴落しても大丈夫なようにリスクを落としておけばよいのです。

株式100%で運用しているのであれば、例えば3割程度をキャッシュにしたり債券に配分したりする。

もしくは株式の中でもディフェンシブな銘柄へシフトしておく。

このように少し工夫するだけで、概ねマーケットについて行きつつ暴落に備えることは可能です。

ぜひ今後逆イールドというサインが出たら、自身のポートフォリオのリスクについて考えてみてください。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする