ここではいわゆるデマンドサイドアプローチと呼ばれる、リスクプレミアムを用いて株式の期待リターンを算出します。
デマンドサイドアプローチというのは、投資家が企業に対して求める(デマンドする)リスクプレミアムから期待リターンを求める方法です。
なお、ここでの対象資産は日本株、外国株(除く日本)、新興国株とします。
リスクプレミアムを用いた期待リターンの算出
1つ目は、リスクプレミアムを用いる方法です。
この方法では、債券の長期金利に株式のリスクプレミアムを加味して期待リターンを求めます。
算出式:株式リターン=短期金利+長短金利差+リスクプレミアム
日本株式
短期金利
まず、短期金利をどう設定するかが問題です。
2017年現在の水準を使うのであればマイナスですが、これは歴史的に見てあまりにもおかしな水準です。
短期金利に関しては、基本的に物価上昇率に連動する傾向があるため、物価上昇率を仮定することで決めることができます。
現在の日銀は2%を目標にしていますが、これは現実的ではないでしょう。
一方で既にデフレからは脱却しているため、物価上昇率はプラスを仮定するのが妥当です。
ここではバランスをとって1%とします。
つまり、短期金利も1%とおきます。
長期金利
長期金利は長短金利差を使って算出します。
長短金利差とは、その名の通り長期金利と短期金利の差のことです。
歴史的にこの長短金利差は1%ですので、ここでもこの数字を使います。
つまり、長期金利は
短期金利1%+長短金利差1%=2%
となります。
リスクプレミアム
株式のリスクプレミアムをどの程度にするのかは様々な議論があります。
1%程度しかないという懐疑的な意見もあれば、6%といった大胆な数字を主張する方もいます。
ここでは無難に歴史的に平均的な水準を使います。
歴史的には、株式のリスクプレミアムは概ね3~4%程度です。
ここではこの間をとって、3.5%とします。
期待リターン
以上から、日本株式の期待リターンは
期待リターン=短期金利1%+長短金利差1%+リスクプレミアム3.5%=5.5%
となります。
外国株式
外国株式も日本株式とフレームワークは同じです。
短期金利、長短金利差、リスクプレミアムの3つの要素から期待リターンを求めます。
ただし、外国株式には為替リスクもついてきますので、為替調整項としてこの影響についても考慮していきます。
短期金利
アメリカ(FRB)やヨーロッパ(ECB)では基本的に目標の物価水準は2%程度と置かれています。
つまり、短期金利に関しても、概ねこの目標に近い水準という仮定が成り立ちます。
ですので、そのまま2%とします。
長期金利
長期金利は長短金利差を使って算出します。
長短金利差とは、その名の通り長期金利と短期金利の差のことです。
外国の場合、この長短金利差は日本より大きく、歴史的に1.5%程度ですので、ここでもこの数字を使います。
つまり、長期金利は
短期金利2%+長短金利差1.5%=3.5%
となります。
リスクプレミアム
日本と外国で異なるリスクプレミアムを仮定するのは現実的ではありません。
もちろん、明らかに債券より株式の方がリスクが高くなる要因がその国にあるのであれば、そのような要因も加味した方がより精度は増しますが、ここではそのような面倒なことはしません。
つまり、日本と同じ3.5%とします。
為替調整項
外国の資産へ投資する際には、為替リスクももれなくついてきます。
そして、外国資産の期待リターンを算出する際には、この為替を考慮する必要があります。
この為替によるリターン差は、長期的には短期金利の差として現れます。
つまり、外国の方が短期金利が高くなるほど、長期的には為替によるリターンは小さくなるのです。
この辺りのメカニズムは非常に合理的なのですが、ここでは説明を割愛しそういうものだとおもっていただければよいです。
日本の短期金利は、他の先進国より低い状態が続いています。
将来的な短期金利を予測することは困難ですが、過去のデータを参考として用いて、ざっくり
- 日本の短期金利:1%
- 外国(主に米国)の短期金利:2%
とここで想定します。
すると、
為替調整項=日本の短期金利ー外国の短期金利=1% ー2%=1%
となります。
つまり、長期的には年率1%程度のペースで円高になる、もしくは為替ヘッジをすると1%のコストがかかる、と想定していることになります。
期待リターン
以上から、外国株式の期待リターンは
期待リターン=短期金利2%+長短金利差1.5%+リスクプレミアム3.5%-為替調整項1%=6%
となります。
GPIFとの期待リターンの比較
これまで算出した期待リターンをGPIFと比較してまとめてみます。
GPIF市場 基準ケース |
著者算出 | |
短期資産 | 1.0% | 1.0% |
国内株式 | 5.2% | 5.5% |
外国株式 | 6.2% | 6.0% |
どの資産もほとんど同程度の水準ですね。
まあそれなりのロジックで期待リターンを求めると、概ね近い数字に収まるということでしょうか。
そういう意味では、個性のない数字とも言えます。