インフレヘッジに最適な資産は株式ではなく短期有価証券(MMF、MRF)である

株式インフレのリスクに対処するために、株式に投資しましょうというセールス文句をしばしば耳にします。

背後には、インフレになると企業が値上げし、利益も増えるので株価も上がるという考えがあると思われます。

しかしながら、実証分析においては、株式とインフレの相関は高くありません

つまり、株式でインフレをヘッジするという考えは正しくないのです。

では、どの資産が一番インフレとの相関が高いかというと、MMFやMRFに代表される短期有価証券です。

物価連動国債という正にインフレヘッジを目的とした資産もありますが、実はインフレヘッジの機能では短期有価証券には及びません。

ここでは、短期有価証券がなぜインフレヘッジに最適なのか、他の資産がなぜダメなのかをご紹介します。

株式とインフレの関係

一般的に株式とインフレには正の関係があると考えられています。

つまり、インフレが起こるときには、株式も上昇するという関係性があるということです。

しかしながら、この考えは正しくありません。

実証分析においては、同時点において、株式リターンとインフレ率の間にはほとんど相関がありません。

インフレが上がると、株価が上がるという関係性は成り立っていないのです。

一方で、長期で見ると話は変わってきます。

長期的には、(一般的に)物価は右肩上がりで上昇していきます(日本は例外的ですが)。

株式も、短期では上下に振れますが、長期的には右肩上がりで上がっていきます。

つまるところ、物価と株価には同時点における相関はないものの、両者とも長期的には上がっていくため、インフレのヘッジになるように見えているということなのです。

言い換えると、インフレが株価を押し上げるのではなく、両者は別々の要因で上がり、長期的には右肩上がりになるということです。

なので、インフレのヘッジを目的とするのではなく、長期的にインフレより高いリターンを提供してくれればよい、と考えるのであれば、株式は有望な資産ということになります。

短期有価証券(MMF、MRF)とインフレの関係

ではどの資産が一番インフレヘッジになるかというと、MMFやMRFといった短期有価証券がその筆頭になります。

短期有価証券はほとんどキャッシュのようなもののため、直感的にはそうは思えないかもしれませんが、実証分析においては、両者は正の相関を持つことが知られています。

短期有価証券がインフレヘッジ機能をもつ理由は以下になります。

  • 短期有価証券の利回りは短期金利に連動
  • 短期金利は物価に連動

短期有価証券の利回りは短期金利に連動

まず、短期有価証券の利回りは、短期金利に連動します。

短期有価証券の利回りは、短期金利をベースにして決まるので当たり前の話ですね。

単純にいってしまうと、短期金利が高い時にはMMFやMRFの利回りは高くなり、低いときには同様に低くなるということです。

昨今のマイナス金利政策の影響で、日本やヨーロッパでは歪んでしまっている部分はありますが、基本的にはこういうことになります。

短期金利は物価に連動

そして、短期金利は物価に連動します。

そのメカニズムは以下の通りです。

まず、短期金利は中央銀行が決めます。

日本であれば日銀、米国であればFRBですね。

そして、この短期金利を決める際の重要な指標が物価です。

中央銀行の責務の1つが物価の安定のため、短期金利は物価の動向を見ながら決定されます。

単純化して言ってしまうと、物価が上がった(もしくは上がると想定される)場合には短期金利を上げ、下がる場合には短期金利を下げるということです。

このオペレーションにより、短期金利は概ね物価と連動するようになります。

そして、MMFやMRFといった短期有価証券は短期金利と連動するため、短期有価証券と物価が連動するという関係になるのです。

なぜ短期有価証券がインフレヘッジになることが知られていないの

上記のように、非常に単純なメカニズムにより、短期有価証券はインフレのヘッジになります。

しかしながら、一般にはこの事実はあまり知られていません。

なぜ知られていないのか?この点について、2つの仮説をご紹介します。

販売サイドからすると不都合な真実である

MMFやMRFがインフレヘッジになることが知れ渡ると、困る人々がいます。

それは株式や投資信託を販売している方々です。

これらの資産へ投資するキャッチコピーとして、「インフレに備えましょう!」というのはよく聞く話です。

そして、実際にインフレは購買力を減少させる怖いものなので、このキャッチコピーのままに投資している方も結構いるのではないかと思います。

このキャッチコピーを使って商品を販売している人々(や会社)にとって、MMFやMRFがインフレヘッジになることは不都合な真実です。

これらの資産がインフレヘッジになるのであれば、誰も手数料の高い株式や投資信託を買わなくなってしまうからです

インフレヘッジのためにMMFやMRFに資金を滞留させましょう」ではまったく商売になりません。

このように、株式とインフレが連動してくれたほうが売る方としては都合がいい、ということが、あまり知られていない理由の1つのように思われます。

まあいわゆる金融機関で働いている人の中にも、短期有価証券とインフレが連動するということを知らない人は多いため、本気で株式がインフレヘッジになると思い込んで売り込んでいる人も多いのではないかと思いますが。

日本は長引くデフレという珍しい環境にあった

短期有価証券とインフレは連動するのですが、もちろん例外もあります。

それは長年デフレに苦しんだ日本です。

それなりに物価が上がっている海外では短期有価証券とインフレ率との連動性は確認できるのですが、90年代半ば以降デフレに苦しんだ日本では、この関係性が確認できませんでした。

その理由は単純で、物価が下がっても、MMFやMRFの利回りをマイナスにはできないからです。

「Cash is King」 という言葉が一時期流行りましたが、背景としてはこういうことです。

物価が下がったにも関わらず、キャッシュは下がらないので実質ベースでは儲かったという話です

昨今ではそもそもマイナス金利により、MMFやMRFの運用自体が困難になっています。

このように、日本は長らくデフレという特殊な環境を経験してきたため、短期有価証券が物価と連動するという感覚が忘れ去られてしまっているのです。

今の若い人は特にそうではないかと思います。

一方で、中年以降の方は思い出してみてください。

90年代半ばくらいまでの物価が上がる環境においては、銀行の預金利率は高くありませんでしたか?

そして、デフレに突入すると同時にほとんど利率がゼロになりませんでしたか?

もちろん、銀行の預金の場合には、銀行に手数料を引かれているため、短期有価証券に比べると利回りは低くなります。

それでも、それなりに物価には連動して動くのです。

物価連動国債(TIPS)はインフレヘッジに最適ではない

ずばり物価に連動することを目的とした金融商品があります。

それは物価連動国債と呼ばれるものです。

米国ではTIPSと呼ばれたりもします。

この物価連動国債は、国により商品設計は若干異なりますが、基本的にはクーポン部分が物価に応じて変化し、物価と同程度のリターンを提供しようという商品です。

一見インフレリスクのヘッジに適した商品のように思われますが、実際にはそれほどインフレ率と連動しないという少し残念なものになっています。

その理由は以下の2点です。

  • 個人投資家はファンドとして購入する必要があり、コストがかかる
  • リターンが需給に影響され、必ずしもインフレ率に連動しない

個人投資家はファンドとして購入する必要があり、コストがかかる

物価連動国債に限らず、国債という資産の購入単価は非常に高いです。

ある
国債を購入しようとすると、最低1億円くらい必要になります(除く個人向け国債)

まして銘柄を分散しようとすると、数十億かかることになります。

つまり、個人投資家が直接国債を購入することは現実的ではないのです。

ではどうするかというと、投資信託として売り出されているファンドを買えばよいのです。

物価連動国債についても、物価連動国債ファンドが売り出されており、これを購入することで物価連動国債へのエクスポージャーを持つことができます。

しかしながら問題は、ファンドの保有にはコストがかかるということです。

保有だけでなく、購入にもコストがかかることがあります。

例えば、インフレ率が2%で、物価連動国債の利回りも2%とします。

ここにファンドのコストが1%かかると、実際に享受することができるリターンは1%となります。

つまりコスト分インフレ率に負けてしまうのです。

これではインフレヘッジにならず、そもそもこのファンドを買う意味がありません。

リターンが需給に影響され、必ずしもインフレ率に連動しない

物価連動債というのは、マーケット規模の小さな資産です。

規模は国により異なり、イギリスやドイツでは比較的マーケットは大きいのですが、日本では非常に小さく、一般的な国債に比べると微々たるものです。

マーケット規模が小さいと何が問題かというと、需給の影響を受けやすく、大口投資家が売ったり買ったりするだけで、フェアバリューから価格が容易にかい離してしまうのです。

一番わかりやすい例がリーマンショックの時ですが、この時は物価連動国債が10%以上売り込まれました。

この時のインフレ率やその後のインフレ率を見ても10%以上下落するということはなかったわけですが、実際には物価連動債は物価とは関係なしに大きく売り込まれたのです。

この背景には、物価連動債を保有していた金融機関が、金融危機によりとにかくキャッシュを必要としたため、価格を無視して物価連動債を投げ売ったということがあります。

つまり、需給に大きな歪みが生じたのです。

このように、物価連動債は物価に連動することを目標としながらも、実際には需給の要因を受け、必ずしも物価には連動しません

しかも、いつ需給が歪むかは事前には予測できないため、尚更質の悪い特徴を持った商品と言えます。

インフレヘッジにはMMFやMRFが最適である

まとめると以下のようになります。

まず、株式リターンとインフレ率には相関はほとんどありません。

なので、株式がインフレのヘッジになるという考えは正しくありません。

ただ、両者とも長期的には右肩上がりになる傾向があるため、物価上昇分を株式リターンでカバーすることはできます。

各資産のうち、インフレヘッジに最も適しているのはMMFやMRFといった短期有価証券です。

短期有価証券の利回りは短期金利に連動し、短期金利は物価に連動するため、両者は相関を持つことになります。

これらを踏まえると、インフレに対するヘッジをしたいだけならば、MMFやMRFへ投資しておけばよいということになります。

なお、物価連動国債(TIPS)という物価に連動するように設計されている商品もありますが必ずしもインフレのヘッジにはなりません。

理由としては、

  • 個人が保有するには物価連動国債を組み入れたファンドを買う必要があり、それなりのコストがかかる
  • 物価連動国債はマーケットの需給にパフォーマンスが影響するため、必ずしも物価には連動しない

といったところです。

結論としては、ただ単にインフレをヘッジしたいのであれば、短期有価証券でよいということになります。

もちろんより高いリターンを目指すのであれば、株式やリートなどのリスク性資産へ投資する必要があります。

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする