自社株買いと配当の増配で株価への影響が違う3つの理由。人間は目先の現金に弱い

配当自社株買いと増配は、株主還元という観点では本質は同じです。

しかしながらマーケットの反応は、自社株買いと増配では異なることが多々あります。

なぜこのような違いが起こるのでしょうか。

ここではその理由(仮説)をご紹介します。

自社株買いと増配の違い

自社株買いと増配(配当を増やすこと)は両者とも株主還元としてマーケットには好感されるイベントです

基本これらのイベントが発表されると、株価は上昇する傾向があります。

しかしながら、この2つでその効果は必ずしも同じではありません。

両者とも株主還元という意味では同じですが、理論上の株主に対するメリットは異なります。

理論上は自社株買いが有利

例えば同じ100億円分の自社株買いと増配を行う場合を考えます

自社株買いの場合には、100億円分を買い入れた分、1株当たりの利益が増加します。

つまり、その分のキャピタルゲインが期待されます。

一方、増配の場合には、株主に100億円分が支払われます。

これだけであれば両者は本質的に全く同じです。

同じ100億を1株当たりの利益の増加という形で還元するか、配当として還元するかだけの違いだからです。

問題は、配当には税金がかかるということです。

配当にかかる税金を20%とすると、100億の増配を行った場合には、実際に株主に渡る額は80億円になります。

一方の自社株買いの場合には税金は関係ありませんので、100億分がまるまる株主に還元されることになります。

つまり、税金を考慮すると、同額の株主還元であれば自社株買いの方が有利になるのです。

マーケットでは増配の方が好感される

では、実際のマーケットの反応はどうかというと、自社株買いより増配の方が好感される傾向があります。

これは非常に不思議な現象です。

理論上は明らかに自社株買いの方が(株主の立場から見ると)有利にもかかわらず、その逆のことが起こっているのです。

なぜこのような理屈と異なることが起こっているか?という点について、3つの理由をご紹介します。

株主は目先の現金を好む

まず1つ目は、株主は目先の現金を好むということです。

自社株買いは理屈の上ではEPSの増加を通じて株主価値の増加に貢献するのですが、実際に現金が支払われるわけではありません。

一方の増配の場合には、実際に現金が支払われます。

長期的には税金がかからない自社株買いの方が有利をわかっていても、目先のキャッシュの支払いを好むというのは、行動ファイナンスでいうところの近視眼的利益を好むといったところでしょうか。

理屈より、目先の現金というのが、人間の持つバイアスの1つなのかもしれません。

なお、これと同じことは、毎月分配型の投資信託についても言えます。

元本が減るけど目先の現金をより欲するという構図は全く同じです

そういう意味で、毎月分配型の商品は、行動ファイナンス的にはよくできたものなのかもしれません。

配当は一度増やすと減らしにくい

配当が好まれる2つ目の理由として、配当の方が減らしにくいという事情があります。

どういうことかというと、配当というのは安定的に支払われると考える投資家が多いため、企業の側からすると、減配をすると大きく株価が下落するリスクがあるのです。

自社株の場合には1度きりの対応で終わりということも多いですが配当の場合には一度増やすとその水準を維持する必要が出てくるのです。

この辺りは、企業はベア(ベースアップ)には難色を示すが、業績が良ければボーナスは弾むという傾向と似ているかもしれません(もちろんベアが増配、ボーナスが自社株買いに相当します)

配当にはエージェンシー問題の緩和効果がある

配当が好まれる3つ目の理由として、エージェンシー問題の緩和があります。

エージェンシー問題とは

エージェンシー問題とは、株主と経営者のインセンティブが異なるため、経営者が必ずしも株主にとって好ましくない行動をとることを言います。

例えば、経営者が不必要に豪華な社長室をこしらえたり、経費で外車を買ったり、不必要な買収を行ったりといったことが挙げられます。

経営者は基本的に自分の在任期間中に業績を上げようとしますが、株主の視点はより長期であることも多いです。

このような視点の違いもエージェンシー問題を生む原因の1つになります。

配当がエージェンシー問題を軽減

エージェンシー問題が発生する原因の1つは、会社が不必要な現金を保有していることに起因します。

事業に必要ない現金を保有していると、上記のように株主の利益にはつながらないようなお金の使われ方をするリスクが高まるのです。

配当として利益の一部を株主に還元すれば、少なくともその分の現金がおかしなことに使われることはなくなります。

つまり、企業が保有する現金を減らすことで、エージェンシー問題を緩和する効果が期待できるのです。

ここで、自社株買いにおいても株を買っているので現金が減っているのではないかという指摘があるかもしれません。

確かにその通りなのですが、企業は買った自社株を再度売り出すことも可能なので、現金として完全に外部に払い出す配当に比べると、エージェンシー問題の低減効果は薄いのです。

もちろん、自社株買いを行った後に更に株式の消却が行われれば、自社株買いにも同じ効果が期待できることになります。

自社株買いと増配の株価への影響のまとめ

以上、自社株買いと増配の株価への影響をまとめます。

自社株買いと増配では、同じ金額であれば理論上は自社株買いの方が税金の分有利になります。

しかしながら実際のマーケットでは、自社株買いよりも増配の方がより株価にポジティブな影響を与える傾向があります。

この背景には以下の3つの理由が存在します。

  • 自社株買いより増配の方がその後継続する傾向がある
  • 株主はまだ実現していない評価益より、目先の現金を好む傾向がある
  • 配当にはエージェンシー問題を緩和する効果がある

この中で、効果として特に大きいと思われるのが2つ目の目先の利益を好むという選好です。

やはり人間というのはバイアスに満ちていて、いくら理論上は自社株買いの方が有利とわかっていても、目先のニンジンには逆らえないものなのです(そもそも理論を理解していない投資家も多いと思われますが)

この辺りの行動バイアスは、毎月分配型を好む投資家と根っこの部分では同じなのではないかと思われます。

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