先進国は為替が弱くなると株式が買われるが、新興国は為替が弱くなると株式も売られる

為替外国株式への投資を考える際には、為替も重要なファクターになります。

為替をヘッジして投資してしまえば為替を気にする必要はなくなるのですが、為替ヘッジ型の商品は限られており、また自分でヘッジするのも手間なため、多くの投資家は為替リスクとともに株式に投資しています。

この各国の為替と株価との関係は、先進国と新興国とで挙動が異なります。

もちろん国による差はありますが、大まかには先進国の場合、自国通貨安は株価の上昇につながり、新興国の場合には逆に株価の下落につながります

ここではこのようなメカニズムが発生する背景とリターンへの影響をご紹介します。

先進国では為替が弱くなると株価が上がる理由

先進国では、自国通貨が弱くなると株価が上がる傾向があります。

理由としては、自国通貨安とともに輸出競争力が強まるからです。

つまり通貨安は外需の増加により経済を活性化し、株価の上昇につながるのです。

多くの先進国が、自国の通貨をできるだけ安くしようとするのはこのためです。

特にリーマンショック後の時期はこの傾向が顕著に現れました。

ぼろぼろになった経済を立て直すために各国とも壮大な金融緩和を行い、自国通貨安へと誘導しようとしました(もちろんオフィシャルには自国通貨安を狙ったとは言えませんが)

先進国は株式リターンと通貨リターンが相殺される

この通貨が安くなると株価が上がるという関係は、異国の投資家から見ると両者のリターンが相殺されることになります。

例えば日本から米国株への投資を考えます。

米ドルが安くなると米国株が上がります。

つまり日本から見ると、米国株部分はプラスなのですが、米ドルが安くなった分為替部分はマイナスに働きます。

要はリターンが相殺しあってくれるのです。

もちろん両者のリターンは一致するわけではないのでどちらかの部分が残るわけですが(大抵はよりリスクの大きい株式部分が残ります)、為替により分散効果が働くというのは他の先進国への投資の際のメリットと捉えることもできます。

新興国では為替が弱くなると株価が下がる理由

一方の新興国では、先進国と逆の動きが起こります。

自国通貨が弱くなると株価も下がるのです。

その理由は大まかに以下の2点です。

  • 新興国の脆弱性
  • インフレリスクの上昇

新興国の脆弱性

先進国に比べると、新興国のファンダメンタルズは脆弱です。

そのため、自国通貨が売られる時というのは、国そのもののリスクが意識される場合が多いのです。
例えばブラジル経済がやばいと認識されれば、ブラジルレアルとともにボベスパ指数(ブラジルの代表的な株価指数)も同時に売られるのです。

ここが基本的にファンダメンタルズがしっかりしている先進国との違いです。

インフレリスクの上昇

インフレが長期に渡り比較的安定している先進国に比べ、新興国では多くの国でインフレに悩まされています。

そのため、新興国の中央銀行はインフレをどう制御するかという点で大いに頭を悩ませています。

もちろんインフレを退治するには短期金利を上げればいいのですが、金利を上げることは借入コストの上昇につながり、景気を減速させてしまいます。

つまり、インフレの抑制と経済成長の安定という2つをどうバランスさせるかで頭を悩ませているのです(同様な悩みは先進国にもありますが、程度の大きさが異なります)

少し話がそれましたが、自国通貨安は輸入物価の上昇を通じてインフレ要因になります

つまり、通貨安がインフレリスクにつながり、それが投資家に嫌気され、株式も売られるのです。

加えて、上記のようにインフレ率が実際に上がってくると、中央銀行は金利を上げる必要性に迫られます。

そして金利の上昇は経済を減速させ、株価を下落させます

まとめると、新興国において自国通貨安はインフレリスクの上昇及び中央銀行の利上げにより、株価を下落させるのです。

新興国は株式リターンに通貨リターンのレバレッジがかかる

先進国の場合には、外国の投資家から見ると株式リターンと通貨リターンは相殺されると述べましたが、新興国の場合にはこの逆のことが起こります。

既に述べたように株式リターンと通貨リターンは同じ動きをする傾向があるため、リターンにレバレッジがかかります。

株式リターンがいい時は為替のリターンもいいため、さらにリターンが上乗せされます。

一方、株式リターンが悪い時は為替リターンも悪くなり、こちらも下落に拍車がかかります。

つまり新興国株式への投資は、為替部分を含めるとよりハイリスクハイリターンになるのです。

新興国株式へ投資する際には、このような特性も十分理解しておく必要があります。

特に「何とか危機」というようなリスク回避的な環境時には、新興国から資金が逃げ、株式と為替の両方でやられますので十分に注意が必要です。

先進国でも株式と為替の両方が売られることもある

ここで述べたことは一般論的な話で、もちろん例外もあります。

その最たるものが特定の国や地域を対象とした危機が起こった場合です。

以下わかりやすい例を2つご紹介します。

ヨーロッパ債務危機

ヨーロッパ債務危機とは、ギリシャの財政支出の粉飾を発端として、2010年から2011年にかけてヨーロッパ全体に信用リスクが高まった出来事です。

信用リスクはギリシャからイタリアやスペインといった大国にも飛び火し、債券と株式が売られ、ユーロも売られるというトリプル安となりました。

先進国では、一般的に通貨安は株価の上昇要因となるのですが、この例のように特定の地域で危機が発生した場合には、同時に売られることもあります。

なお余談ですが、貿易立国のドイツはこのユーロ安のメリットを大いに享受し、多大なる貿易黒字を計上していました。

BREXIT

BREXITは2016年にイギリスがEUからの離脱をかけて国民投票を行い、僅差で離脱が決定されたイベントです。

事前予想でも票は拮抗していましたが、「流石に最終的にEUを離脱するような決定はしないだろう」と多くの人は思っていました。

しかしながら、大方の予想に反してBREXIT(EUからの離脱)が決まり、イギリスポンドは大きく売られ、株式も下落しました。

だたこの時は短期的には株式と通貨が両方売られる形になりましたが、その後ポンド安を受けて輸出が持ち直し、株式は上昇に転じたため、結局は通貨安、株高となったと見ることもできます。

またBREXITを投資家が冷静に受け止めるようになるにつれ、イギリスポンドも徐々に強含んでいきました。

まとめ

以上まとめると、傾向として

  • 先進国では通貨が下落すると株式は上昇する
  • 新興国では通貨が下落すると株式も下落する

という関係性があります。

そのため、先進国に投資する時と、新興国に投資する時には為替の部分も含めてリスクを考えていく必要があります。

特になんとかショックのようなイベントが発生すると、大抵は新興国の株式と通貨は同時に売られるため、大きな損失になる可能性があります。

新興国株式へ投資する際には是非注意すべき要因になります。

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