低ボラティリティ効果とは、ボラティリティの低い株の方が、ボラティリティの高い株より長期的にはリターン/リスクで優れているという現象です。
株式のボラティリティはベータに概ね比例するため、低ベータ効果とも言われています。
また低ボラティリティの代わりに低リスク効果と呼ばれることもあります。
この低ボラティリティ効果はマーケットのアノマリーの1つと言われていますが、この現象の背後にはいくつかの合理的な仮説が存在します。
ここでは、低ボラティリティ効果の背後にある仮説をご紹介します。
なお、そもそも低ボラティリティ投資って何?という方はまずは以下の記事をご参照ください。
関連記事:低ボラティリティ投資の特徴とメリットデメリット
レバレッジアバージョン(レバレッジ回避)バイアス
合理的なファイナンスの世界においては、投資家が高リターンを得ようとすると、レバレッジをかけてリターンを高めようとします。
例えば株式Aのリターンが4%、リスクが10%で、株式Bのリターンが6%、リスクが20%であるならば、株式Aに3倍のレバレッジをかけて投資すれば株式Bと同じリターンをより低リスクで実現することができます(ここでは簡略化の為に借入コストは無視)。
しかし、現実にこのような行動をする投資家は稀です。
もし6%のリターンを得たいのであれば、素直に6%の株式を購入する人がほとんどです。
つまり伝統的なファイナンスの枠組みにおいては、自由に借り入れが行われる(レバレッジをかける)ことで裁定が働き、フリーランチはなくなるのですが、現実の人々の行動はこの理想的な状態とは異なるのです。
上記の例では、多くの人がレバレッジを使ってリターンを上げるのでなく、6%の株式に投資することで、この株式の期待リターンは下がることになります。
このように、より高いリターンを達成しようとしたとき、リターン/リスクが有利になるようにレバレッジを活用するのではなく、単純に期待リターンの高い資産を購入することでマーケットに歪みが生じます。
つまり株式では低リスク銘柄の期待リターンが高くなり、高リスク銘柄の期待リターンが低くなるのです。
これがレバレッジアバージョンバイアスによる低ボラティリティ効果の説明になります。
高リスク株への選好
リスクの高い銘柄を好む投資家はたくさんいます。
理由は高リスクというのは、つまるところ値動きの激しい銘柄であり、うまくいけば大もうけできる可能性があるからです(もちろんその逆もしかりです)。
人間というのは自信過剰で、夢を見やすい傾向にあります。
そのため、あまり値動きのない銘柄より、値動きの激しい銘柄で一発当てようと試みる方が多くいます。
このような高リスクを選好する投資家により高リスク銘柄は買い上げられ、割高になります。
つまり相対的に低リスク銘柄の方が割安で期待リターンが高くなるのです。
高ベータバイアス
特に機関投資家に見られる現象ですが、ポートフォリオ全体を高ベータに保つ傾向が見られます。
高ベータにする理由は個々のマネージャーにより違うかもしれませんが、最大公約数的な考えをまとめると、相場は長期的には上がると考えているからです。
そもそもマーケットが長期において上がらないのであれば、投資をする意味がありません。
キャッシュを持っていた方が合理的です。
もちろん日本のように数十年に渡り相場が低迷することもあるのですが、世界的に見れば株式マーケットが長期的に上がっていくことは一目瞭然です。
そのため、ファンドマネージャーからすると、ベータをマーケットより低くする戦略はなかなか取りづらいのです。
そして多くのファンドマネージャーが高ベータの特性を持つことにより、高ベータ(つまり高リスク)銘柄は割高になります。
その結果、その反対にある低ベータ銘柄が割安になり、相対的にパフォーマンスが良くなるのです。
今後も低ボラティリティ効果は継続するか
今後も低ボラティリティ効果は継続するのでしょうか。
低ボラティリティ効果を考える上では、2つのポイントがあります。
1つは上記で述べたように、高リスク銘柄が割高になることにより、その裏返しで低リスク株が相対的に優位になるということです(つまり高リスク銘柄要因)
もう1つは低リスク株そのものが割安であり続けることです(低リスク株要因)
高リスク株要因
高リスク株要因については、今後も継続する可能性が高いと見ています。
というのは、上記に述べた3つのバイアスは人間の心理に根差しており、そうそう変わるものではないからです。
アクティブファンドが低ベータ志向になったり、高リスクを好む投資家が顕著に減少したり、有利な低リスク株をレバレッジをかけて購入するような人が増えれば話は別ですが、直感的にこれらのバイアスがなくなるとは思えません。
もちろんバイアスが弱まることはあるかもしれませんが、人間というのは往々にして過去を繰り返すものなので、バイアスが弱まった後にはまた強まるかもしれません。
つまり、高リスク株が過大評価されるバイアスは将来に渡っても継続するのではないかというのが私の見立てです。
低リスク株要因
こちらについては、近年大きな動きが見られます。
低ボラティリティ効果は機関投資家を中心に近年広く知れ渡り、多くの投資家が資金を投入してきています。
このような資金は低リスク株の価格を押し上げ、期待リターンを下げます。
つまり多くの人が低ボラティリティファンドへ資金を投じることにより、低ボラティリティ効果は薄まり、最終的には消失する可能性もあります。
歴史を紐解くと、バリュー株効果や小型株効果などの(今となっては)有名なアノマリーは、その存在が知られるにつれ徐々に観測されなくなってきました。
アノマリーというのは、その存在が知れ渡るほどそのアノマリーを活用する投資が増え、徐々にその効果が消失していく運命にあります。
そういった意味で、低ボラティリティ効果についても、多くの投資家が殺到することにより、その有効性が低下し、最終的には消失する運命にあるかもしれません。
将来に渡って低ボラ手入りティ効果が継続するかどうかは、高リスク株要因によるバイアスを打ち消すほどの低リスク株要因が発生するかにかかっているのではないでしょうか。
まとめ
低ボラティリティ効果はファイナンスの世界ではとても興味深い存在です。
伝統的なファイナンス論ではこのような存在は否定されてしかるべきなのですが、実は数十年前から知られている効果でもあります。
やはり理論と現実とは異なるというわけですね。
とりわけ現実を考える際には、人間は合理的ではないという点を出発点にし、どのような点で非合理なのか、その非合理性はどのように価格に影響を与えるのかということを考えることが重要です。
先に述べた3つの仮説はまさに人間の非合理性をベースにして組み立てているわけです。
マーケットというのはつくづく人間のバイアスや心理によって形成されているものだなあということを実感させられます。