スマートベータは近年脚光を浴びている用語です。
スマートベータというのはいわゆる造語で、これまでファクター投資と呼ばれていたものを一括りにスマートベータと呼んでいます。
ですので、内容として何か新しいものがあるわけではなく、これまであったファクター投資の総称とでも言うべきものです。
ここでは、このスマートベータ(ファクター投資)のメリットと問題点をご紹介します。
スマートベータのメリット
まずスマートベータのメリットとして以下の3点をご紹介します。
- アクティブファンドに比べて低コスト
- ポートフォリオの透明性が高い
- 長期的なリスクプレミアムが期待できる
アクティブファンドに比べて低コスト
スマートベータのメリットの1つは、コストが安いことです。
昔ながらのアクティブファンドに比べてかなりコストは低く設定されています。
コストが低い理由としては、スマートベータは基本的にポートフォリオ作成のロジックが決まっているため、概ね機械的にポートフォリオの作成ができるからです。
従来のアクティブ運用だと調査の為の費用であったり、人件費であったり、様々なコストが必要なのです。
このようなコストが不要もしくは少ないため、トータルのコストを下げることができるのです。
ポートフォリオの透明性が高い
スマートベータはポートフォリオの透明性が高いです。
そもそものポートフォリオ組み入れロジックが決まっているため、何をどのくらい組み入れているかが明確にわかります。
特に、多くのスマートベータは、スマートベータとして設計された指数に連動するように運用されるため、元の指数をみればほぼ運用の中身を把握することができます。
例えばヘッジファンドには全く投資先を開示しなかったり、開示の頻度が著しく開いていたりすることも多いですが、このような運用には何をやっているのはわからないという批判もあります。
スマートベータに関しては、何を組み入れているのかがわかりますので、このような批判はなく、何をしているかがわかりやすいという安心感があります。
長期的なリスクプレミアムが期待できる
投資において最も重要なのはパフォーマンスです。
透明性が高くても、コストが安くても、パフォーマンスが悪ければ元も子もありません。
この点において、スマートベータは、長期的にリスクプレミアムを享受することが期待されています。
スマートベータにはいくつもの種類がありますが、どれもアカデミックな世界における長期的な実証分析により長期的なアルファが見られたものばかりです。
つまり、短期的にはパフォーマンスが冴えないことはあっても、長期的にはリスクに見合ったリターンが得られると思われるファクターへの投資を行うのがスマートベータの特徴なのです。
もちろん将来のパフォーマンスがどうなるかはわかりませんし、保証の限りでもないのですが、少なくとも過去の長期的な検証により有効であるとされたファクターが基本的には用いられています。
そのため、スマートベータへ投資する際には、長期的な視点を持つ必要があるかと思います。
スマートベータの問題点
スマートベータにはメリットだけでなく、問題点もあります。
ここではスマートベータの問題点を3つ取り上げます。
- ハーディング(群れ)
- 先回り投資によるパフォーマンス劣化
- 万能型のファクターはない
ハーディング
ハーディングというのは直訳すると「群れ」のことですが、投資の世界においては、特定の運用戦略やスタイルに資金が集中してしまう状態のことをいいます。
ハーディングの何が問題になるかというと、ある戦略にハーディングが起こっており、何かのきっかけで資金が逃げ出すと、売りが売りを呼びパフォーマンスが強烈に悪化することがあるのです。
歴史を紐解けば、1987年のブラックマンデーはポートフォリオインシュアランス運用へのハーディングが暴落の要因となり、1998年にはリスクアービトラージ取引へのハーディングがLTCMの破綻の引き金となり、2007年のクオンツ危機においては、バリューティルトのマーケットニュートラル戦略へのハーディングが危機の背景にありました。
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このように、過度なハーディングはその戦略の壊滅的なパフォーマンスへとつながることがままあるのです。
上記に述べたような大規模な危機ではなくても、ある程度の資金が集まると、その後のパフォーマンスの低迷はよくあることです。
また、資金が集まることで、その戦略自体が割高になり、その後のパフォーマンスを劣化させるということもあります。
運用する側からすると、資金が集まるのはうれしいことなのですが、集まりすぎることは自らの首を絞めてしまう可能性を秘めています。
先回り投資によるパフォーマンス劣化
スマートベータのメリットの1つとして「透明性」を上げましたが、これは場合によってはデメリットにもなり得ます。
既に述べたように、スマートベータは基本的に機械的な運用が行われるため、どの銘柄がいつ組み入れられるかをある程度事前に予測することが可能です。
組み入れられる銘柄を先回りして買っておき、スマートベータ型のファンドがその銘柄を組み入れて値が上がったところで売れば儲けることができるかもしれません。
これは裏を返すと、スマートベータの側からするとより高い価格で銘柄を買わされることになるため、パフォーマンスの劣化につながります。
もちろん運用資金が大きくなければこのような先回り通しによるインパクトは大きくないのですが(そもそも狙われない)、ある程度の規模になると注意する必要が出てきます。
売買のタイミングに柔軟性を持たせることでこの問題はある程度低減させることができます。
一方で、参照している指数と異なるタイミングでの売買は指数とのパフォーマンスのかい離を生じさせる要因となるため、両者のバランスをうまくとる必要があります。
万能型のファクターはない
当たり前の話ですが、万能型のファクターなどは存在しません。
各ファクターには得意不得意があります。
例えば、低ボラティリティ戦略の場合、下げ相場には相対的に強いですが、上げ相場には弱いです。
バリューファクターはマーケットが暴落した後の反発には強いですが、二極化相場には弱いです。
長期的にはリスクプレミアムが期待されるとはいえ、短期的には相場の得手不得手によりパフォーマンスが冴えなくなる可能性は高いのです。
このような弱点を補うために、様々なスマートベータ(ファクター)を組み合わせるという戦略もあります。
確かに組み合わせることで弱点は補完されるかもしれませんが、一方で組み合わせ方によってはマーケットとほとんど変わらないパフォーマンスしか生み出さなくなります(例えばバリューとグロースを組み合わせると、概ねマーケット全体になります)
組み合わせるにしても、ただたくさん組み合わせればよいのではなく、どのようなリスクプロファイルを持つファクターへ投資したいかを考えた上で、適切な組み合わせを考えていく必要があります。
スマートベータは賢い指数などと訳されることもありますが、いつも賢いわけではなく、賢さが発揮される局面とそうでない局面を事前に把握しておく必要があります。
スマートベータ(ファクター投資)のメリットと問題点のまとめ
以上、スマートベータ(ファクター投資)のメリットと問題点をまとめます。
まず、メリットは以下の通りです。
- アクティブファンドに比べて低コスト
- ポートフォリオの透明性が高い
- 長期的なリスクプレミアムが期待できる
スマートベータには、従来のアクティブマネージャーのアルファの一部を機械的に切り出すというコンセプトがあります。
そのため、上記のような3つのメリットが存在するわけです。
一方の問題点は以下のようになります。
- ハーディング(群れ)による暴落の危険性
- 先回り投資によるパフォーマンス劣化
- 万能型のファクターはない
この中でも、特にハーディングには注意が必要です。
頻度は多くありませんが、歴史的にハーディングは大惨事の引き金になることがあるため、大きなテイルリスクを内包しているといえます。
ある戦略の人気があまりにも高まった時には、ハーディングを疑い、少し慎重になった方がよいのではないかと思います。