企業が投資家に与えるという視点から見たサプライサイドアプローチ、投資家が企業に対し要求するプレミアムから算出するデマンドサイドアプローチなどが有名です。
ここではこれらのアプローチとは全く違う、各資産について各要素から逆算して求めるインプライド期待リターンというものを算出します。
期待リターンを直接求めるのではなく、期待リターンに影響を与える要素から期待リターンを推計する方法になります。
インプライド期待リターンとは
インプライド期待リターンとは、直接リターンの構成要素を積み上げて算出するのではなく、他の要素から逆算して算出された期待リターンのことを言います。
言葉ではわかりにくいと思いますので、以下の例で説明します。
インプライド~の例
インプライド~という代表的な指標にVIX(ボラティリティインデックス)があります。
ネーミングはインプライドボラティリティですね。
(ボラティリティとリスクは同義です。念のため)
VIXは恐怖指数として有名ですが、この指標はマーケットにつけられているオプションの価格から、ボラティリティを逆算して求めたものになります。
オプションの価格決定要因の1つがマーケットのボラティリティのため、逆に現在のオプション価格がわかれば、マーケットに織り込まれているボラティリティの水準がわかるということですね。
このように、直接その数値を求めるのではなく、他の関係する要因から逆説的にその数字を求めることを、インプライド~といいます。
インプライド期待リターンの算出方法
インプライド期待リターンの算出には、これまで用いてきたリターンとリスク、シャープレシオの関係式を使います。
具体的には以下の式から期待リターンを逆算します。
シャープレシオ=(期待リターンー短期金利)÷リスク
この式を期待リターンで解くと、
期待リターン=シャープレシオ×リスク+短期金利
となります。
つまり、シャープレシオ、リスク、短期金利の数字を与えることによりインプライド期待リターンは求まります。
インプライド期待リターンの算出
関係要素(シャープレシオ、リスク、短期金利)の付与
上記のように、シャープレシオ、リスク、短期金利を与えることでインプライド期待リターンが求まります。
ここでは各要素の数字のセッティングを行います。
まず、リスクはこれまで使用した過去5年の数値を使用します。
短期金利もこれまでに使用してきた1%を使います。
シャープレシオについては、ここでは均衡状態を仮定します。
均衡状態というと難しそうですが、要は各資産間で優劣の差はないという状態を仮定するということです。
つまり、各資産は全て同一のシャープレシオとなるという状態を仮定します。
このシャープレシオの水準ですが、これまでに算出してきた数字をベースに、ここではざっくりと0.2という数字を置きます(これまでに求めてきた期待リターンから算出されたシャープレシオの概ねの平均値です)
インプライド期待リターンまとめ
過去5年のリスク、短期金利1%、シャープレシオ0.2から逆算された各資産のインプライド期待リターンは以下のようになります。
リスク | シャープレシオ | インプライド 期待リターン |
|
国内債券 | 2.5% | 0.20 | 1.5% |
国内株式 | 25.0% | 0.20 | 6.0% |
外国債券 | 11.0% | 0.20 | 3.2% |
外国株式 | 24.0% | 0.20 | 5.8% |
J-REIT | 22.0% | 0.20 | 5.4% |
外国REIT | 23.0% | 0.20 | 5.6% |
新興国債券 | 15.0% | 0.20 | 4.0% |
新興国株式 | 24.0% | 0.20 | 5.8% |
概ねそれっぽい数字にはなっていますが、細かく見ると違和感のあるところもあります。
個人的には国内株式の6%が相対的に高いなという点と新興国株式の5.8%が少し低いなという印象があります。
これは、国内株式のリスクが高いことと、新興国株式のリスクがそれほど高くないことに起因しています。
これまで算出してきた期待リターンとの比較は以下になります(コスト控除前の数値)
インプライド 期待リターン |
期待リターン | |
国内債券 | 1.5% | 1.5% |
国内株式 | 6.0% | 5.0% |
外国債券 | 3.2% | 2.5% |
外国株式 | 5.8% | 6.0% |
J-REIT | 5.4% | 5.0% |
外国REIT | 5.6% | 6.0% |
新興国債券 | 4.0% | 5.0% |
新興国株式 | 5.8% | 8.5% |
どちらも割と近い数値になっています。
既に指摘した国内株式と新興国株式以外はそれほど違和感のない数字です。
インプライド期待リターンのいいところは、計量的に全資産同一の計算式で算出できるところですが、一方で全く空気を読まない方法ゆえに違和感のある結果が出ることも多いという欠点も持ち合わせています。
ここまでくると、実際にどの数字を使うかは人間による定性的な判断になります。
いうまでもないことかもしれませんが、このインプライド期待リターンを算出する際には、リスクとシャープレシオと短期金利にどのような仮定を置くかが重要になります。
特にリスクに関しては資産ごとに異なるため、ここの前提により、結果は大きく変わってきます。