AI(人工知能)運用の特徴とメリットデメリット。短期予測は得意だが中身はブラックボックス

投資家近年じわじわと流行ってきているAI(人工知能)によって運用されるファンド。

AIというとなんだか凄いもののように聞こえますが、実際にはどの程度凄いのでしょうか。

既にAIという冠のついたファンドも世に出ており、多くの方が投資できる環境となっています。

ここでは、実際にAIによる運用の特徴とともに、どのような点が優れているのか、そしてどのような問題点が(現状では)あるのかをご紹介します。

AIファンドのメリット

AIファンドのメリットは以下の2つです。

  • 人間の気づけない関係性を使って超過リターンが狙える
  • 短期の予測力に優れる

人間の気づけない関係性を抽出できる

AI運用というのは、いうならばマシンパワーにものをいわせて過去の膨大なデータをゴリゴリいじくり回し、変数間の関係性を洗い出し、予測力のある指標なり関係性を抽出し、それを投資に活かすということです。

ここで使われるデータは様々で、価格や出来高などのマーケットのデータであったり、会社の財務データであったり、GDPやPMIなどのマクロ変数であったり、ツイッターやファイスブックから取得した非構造化データ(文章などの構造があいまいなデータ)であったり、まあ実にさまざまです。

このようなデータをインプットし、AIにゴリゴリ過去のリターンと各指標との関係を調べてもらい(AIに学習してもらい)、実際に有効そうな指標やその組み合わせなどを使って銘柄選択を行うというのがそのエッセンスです。

人間の思考力や記憶には限界があるため、その一部を機械(AI)に肩代わりしてもらいましょうというのがざっくりとしたイメージです。

短期の予測力に優れる

AIは短期予測が得意です。

ここでいう短期とは、数分先とか、1日先とかそこくらいのスパンでの予測になります。

例えば人間が株式の板情報を見ながら

「買い圧力が強いので、この銘柄は上がりそうだ」

というようなことは直感的にはわかるので、AIが短期予測を得意とするのはまあ当然なのかもしれません。

数十分先とか、そのくらいの超ショートタームでの予測については、既に人間よりAIの方が優れていると言われています。

実際に各証券会社からも、短期的な予測を示すサービスなども登場してきています。

AIファンドのデメリット

翻って、AIファンドのデメリットは以下のようになります。

  • 長期予測が苦手
  • 売買回転率が高い
  • なぜその銘柄がいいのかわからない(運用のブラックボックス化)

長期予測が苦手

既に述べたように、AIが得意とするのは短期予測です。

これは逆に言うと、長期予測は苦手ということになります。

例えば機関投資家であれば、3年や5年といった長期的なパフォーマンスを目指して運用するわけですが、そのようなスパンでの予測は現状AIには難しいため、なかなか採用されにくいというのが現状です。

もちろん短期予測を繰り返していけば長期になるので、そのような方法論もありではあるのですが、後述するようにこの方法は現在のところワークしません。

ディープラーニングをはじめとして、AIは日々進化していますので、将来的にはより長期の予測もある程度の確度で行えるようになる可能性もありますが、現状ではAIによる長期予測は難しいのです。

売買回転率が高い

何度も述べますが、AIが得意とするのは短期予測です。

そのため、AIによる予測を運用に活かそうとすると、短期スパンでの売買が必要となります。

この短期的な売買は膨大な回転率を発生させることになります。

AIが示すポジションはとても移り気なので、昨日のポジションと今日のポジションが全く違うということもあります。

この場合、1日でポートフォリオを全く違うものに組み替える必要があります

このような売買を繰り返していると、当然売買コストがかさんできます。

そして売買コストによりアルファの多くが削られ、場合によってはコスト控除後ではアルファが出ないということもあります。

AI運用というのはシミュレーションにおいては過去データを強烈にチューニングするため、相当良いパフォーマンスをたたき出すのですが、その素晴らしいパフォーマンスは常に売買コストとのトレードオフの関係にあります。

実際には回転率を抑えるためにリバランスの間隔を広げたり、より長期の予測を試みたりするのですが、当然このような施策はパフォーマンスを劣化させます。

回転率を抑えながら、長期的に良好なパフォーマンスを生むための適切な設定というのが、AIファンドの大きな課題です。

運用がブラックボックス

AI運用の中身はブラックボックスになります。

もちろんAIとしてどのツールを使うかによるのですが、近年脚光を浴びているニューラルネットの一種であるディープラーニングを使うと、中身はブラックボックスになります。

つまりAIはどの銘柄がいいかを教えてくれるのですが、なぜその銘柄がいいのかはプログラムを作った本人にもわかりません。

過去の膨大なデータの様々な関係性からAIが魅力的な銘柄を判断するため、どのような関係性を使ったのか、どのデータを重要視したのかということを後から振り返ることができないのです。

ここはAI運用の大きな弱点になっています。

説明責任を果たせない

例えばある機関投資家にAIファンドに投資してもらったとします

運用会社には説明責任があるため、機関投資家の方になぜパフォーマンスがよかったのか、悪かったのかを説明する必要があります。

この時にAI運用だと、パフォーマンスの要因を説明することが困難になります。

もちろんどの銘柄によって勝ったのか、負けたのかは説明できますが、そもそもなぜその銘柄を選んだのかを説明することができないのです。

バカ正直に言ってしまえば、

「AIを使った運用なので、理由はわかりません」

となりますが、これで納得してくれる顧客はまずいないでしょう。

このように顧客に対し説明責任が果たせないことがAI運用の大きなネックになっています。

もちろん高パフォーマンスが継続されるのであれば中身がわからなくてもOKという考えもありますが、実際には勝ち続けるファンドなどありません。

そして負けた時にこそ、きちんとその要因を説明でき、今後の見通しも示せることが営業やファンドマネージャーには求められます

そういった意味で、説明責任を果たすことが困難なAI運用は、かなり辛い立場にあると言えます。

なお、もちろんこのようなAIの弱点を補うべく、AI運用のプロセスの解明を行おうという研究もおこなわれています。

今後もし運用のプロセス(AIがどのような関係性を使っているか)を可視化することができれば、AI運用にとっては大きな追い風となり得ます。

AIファンド(運用)の特徴まとめ

以上AI運用の特徴をまとめると以下のようになります。

  • 短期の予測が得意
  • 人間の気づけなかったデータ間の関係性に気づき、投資に活かせる
  • 長期予測は苦手
  • 売買回転率が高い
  • 中身がブラックボックスで説明できない

率直なところ、AI運用はまだまだ発展途上にあると思います。

現在のような短期予測が得意で、長期予測が苦手な状態では、長期的な投資にはなかなかそぐわないです。

一方で、デイトレーダーや、証券会社のプロップトレーダー(自己資金を運用する人)であれば、現状のAIのシグナルを活用することでパフォーマンスを上げられる可能性があります。

そもそもピュアな(人間の判断を入れない)AIファンドが現実的に有効かどうかという点についても意見が分かれるところです。

この辺りは今後のテクノロジーの進展を見守っていきたいと思います。

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