AI運用(人工知能)でファンドマネージャーは不要になるのか

資産運用AIは近年の流行ワードですが、運用の世界でももちろん大変流行っている言葉です。

AIの発達により仕事の多くが無くなるだとか、わりとネガティブな文脈で語られることも多い言葉です。

AIとの関係で言うと、しばしば聞かれるのはAIが発達すれば、ファンドマネージャーは不要になるのではないかということです。

従来ファンドマネージャーが行ってきた複雑な投資意思決定を、AIにやらせてしまえという発想ですね。

私はこの発想は少々乱暴だとは思いますが、一方で全く無視することもできないくらいAIの進歩は著しいものです。

ここでは、AIの発達によるファンドマネージャーへの影響、そしてファンドマネージャーが不要になるのかについてご紹介します。

AIファンドの現状

まず現状のAIと資産運用との関係を整理しておきます。

なおここで対象としているAIはディープラーニングのようなテクノロジーを使ったもので、ロボアドのようななんちゃってAIは対象外です(あれはAIというよりはシンプルなアルゴリズムです)

既にAIを売りにしたファンドは世の中に出ていますが、まだ設定からの期間が短く、評価するには時期尚早です。

また、一口にAIファンドといっても、その内容は多種多様で全てを一括りに語ることはできません。

雑感としては、あるAIファンドは過去の株価や出来高といったマーケット指標を使うケースが多く、従来からあるテクニカル分析をより精緻にしたものという印象が強いです。

つまり大きなブレークスルーがあるというよりは、過去の延長線上に存在しているということです。

AIが自分で考えて決断を下しているというより、より大規模なデータを分析することで、予測精度を高めていると言った方がわかりやすいでしょうか。

そういった意味では、AIというよりビッグデータの処理に優れた運用と捉えることも可能かもしれません。

AIとファンドマネージャーの予測期間の違い

過去にも述べたことがありますが、AIは短期予測には比較的優れていますが、長期予測は(今のところ)難しいです。

あくまで過去と現在のデータを元に予測をしにいくため、近い将来(例えば30分後など)は比較的当てやすいのですが、ある程度先の将来に対してはほとんど無力です。

この予測のタイムスパンの短さがAI運用の弱点です。

一方で、ジャッジメンタルなファンドマネージャーが行っている投資予測は基本的に中長期というタイムスパンです。

つまりAIが得意とする時間軸と、ファンドマネージャーが得意とする時間軸には大きな差があるのです。

ですので、現状では少なくともファンドマネージャーの投資判断の領域をAIが侵食しているということはありません。

関連記事:AI運用の特徴とメリットデメリット

AIの有効な使い方

予測のタイムスパンが違うからといって、AIが運用の役に立たないわけではありません。

もちろん使い方によって、AIを活用することで付加価値を生むことは可能です。

例えば、以下のような領域でAIは付加価値を生むことが期待できます。

  • 短期予測の参考に使う
  • 経済指標のより速いキャッチアップ
  • マーケットセンチメントの把握

短期予測の参考に使う

ファンドマネージャーは基本的に長期投資ですが、時には短期的な視点を必要とすることもあります。

例えば、銘柄Aと銘柄Bで迷った時、AIの情報を参考にし、短期的にAがより魅力的とわかれば、その情報を追加した上で投資判断に活かすという方法です。

また、売りの時も、複数の銘柄の中から、より短期的に下落リスクの高い銘柄から売っていくという活用方法も考えられます。

経済指標の素早いキャッチアップ

経済指標というのは基本的に発表されるタイミングが遅いです。

対象月の翌月や翌々月に公表されたり、場合によってはより遅いタイミングで公表されるものもあります。

つまりそのデータを取得した時には、既に過去のものとなってしまっていて、投資判断に活用しにくいというデメリットがあります。

AIは大量のデータの収集と優れています。

そのため、足元の経済環境を示すようなデータをあちこちから集め、より早く経済環境を把握することが可能です。

投資は経済環境に依存するため、より早くデータをキャッチアップすることができれば、より正確な投資判断が行えるようになります。

このように、マクロ経済のデータをより速く把握し、投資判断に活かすという点でAIは優位性を発揮できる可能性があります。

マーケットのセンチメントの把握

マーケットのセンチメントとは、要は投資家の心理状態のようなものですね。

悲観的なのか、楽観的なのか、はたまた両者が入り乱れているのか、様々な状態があります。

このセンチメントは株価に大いに影響を与えます。

センチメントがいい時にはいいニュースにばかり反応し、悪いニュースには反応しなくなります。

一方で、センチメントが悪いと、逆に悪いニュースばかりに反応するようになります。

このセンチメントを把握するのに、AIは役立ちます。

例えば、ツイッターやウェブの掲示板などには、様々な投資家の意見や気持ちが書かれています。

これらの情報を抽出し、集約することで現在マーケットはどのようなセンチメントなのかを把握することができます。

このセンチメント情報は大いに投資判断に活用することができます

ファンドマネージャーにAIを使うスキルが求められる

これまで述べてきたように、ファンドマネージャーがAIに完全に置き換わるということは現状では全く想像できない世界です。

AIはファンドマネージャーに置き換わるのではなく、ファンドマネージャーにプラスアルファの情報を提供し、投資判断の精度を高めるためのツールです。

なので、今後は、ファンドマネージャーには適切にAIを使いこなすというスキルが求められることになります。

上記で述べたようなAIの活用の仕方は、非常に有用です。

しかしながら、AIをきちんと理解できていないと、間違った使いかをしてしまう恐れがあります。

AIによってファンドマネージャーが不要になるのではなく、AIをうまく使いこなせないファンドマネージャーが淘汰されていくというのが今後の流れではないかと思います。

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